lawlawlawko’s blog

答案をアップしていきます #司法試験

刑法事例演習教材22泥酔した常連さん

第1.本問について

1.まず、甲の酔った状態で自動車を運転した行為は、酒気帯び運転(道路交通法(以下、道交法)65条1項)にあたらないか。

(1)本件で甲は勤務先の新入社員歓迎会でかなりの量のビールや焼酎などを飲み、さらにスナック「嵯峨」で相当量のウイスキーを飲んで酔った状態で車を運転している。よって甲は「酒気を帯びて」「車両を」「運転」しているため、道交法65条1項の構成要件を充たす。甲は自身の限界を超えて飲酒して酩酊の度合いが深まった後にもウイスキーを相当量飲んでいるため「身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態」といえる。

以上より、道交法の酒酔い運転の罪の客観的構成要件に該当する。

(2)故意とは客観的構成要件該当事実の認識・認容をいうところ(38条1項本文)、本件で、甲は上記客観的構成要件該当事実を認識しているため、故意は認められる。

(3)以上より、上記行為は式帯運転として道交法違反になる。

2.(1)次に、「アルコール…の影響により正常な運転が困難な状態」とは、楽邸の影響により、現実に、前方注視やハンドル・ブレーキの操作が困難な心身の状態であることを要するところ、本件においては甲は運転中ハンドル操作がうまくできず、意識がもうろうとし前方注視が困難な状態となっていたということより「アルコール…困難状況」といえる。そして、そのまま運転を続けて、それによってDを死亡させていることより危険運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為などの処罰に関する法律2条)の客観的構成要件を充たす。

(2)故意とは上記をいうところ、甲は上記客観的構成要件該当事実を認識し、今日は殊更危ないなと思ったということから故意も認められる。

(3)以上より、上記行為につき危険運転致死罪が成立すると思える。

3.もっとも、甲が自動車を運転している時点で甲は急性アルコール中毒により「心身耗弱」の状態にあった可能性が高いことより、刑が減刑されないか(39条2項)。

(1)しかし、当心身耗弱状態は甲自身の行為により招致されている。さらに、甲は「嵯峨」で飲んだ後はいつも自動車を運転して帰宅しており、この日もそうするつもりであったという。かかる場合に責任能力の耗弱を認めることは妥当ではないように思える。実行行為時に心身耗弱であっても、原因行為時に完全な責任能力を問える場合、完全難責任能力があるといえないか。

(2)そもそも、責任非難は違法な行為をなす最終的な意思決定に対して向けられるものである。そこで、実行行為たる結果行為が責任能力ある状態での意思決定の実現過程に他ならないといえる場合には、なお完全難責任を問うことができる。具体的には、故意犯の場合は、①原因行為と結果行為(実行行為)との間に因果関係があり、②責任能力のある原因行為時に犯罪実行の故意があり、③その故意が、構成要件に該当し、かつ違法な結果行為時まで持続していれば完全な責任を問える。

(3)本件では、日ごろから嵯峨から自動車で帰宅していたことより、かなりの量のビールや焼酎を飲んだ状態で相当量のウイスキーを飲んだとしても、自ら車を運転して帰宅し、その途中で酪てい状態かつ前方注視が困難な状態に陥って停止中の自動車に衝突するというのは因果関係の範囲内の事情であるといえる(①充足)。また、甲は嵯峨に向かう段階でかなりの量のビールや焼酎などを飲んでいたにもかかわらず飲み足らなさを感じて嵯峨でさらに飲酒した後に車を自ら運転して帰宅しようとしていた。このことより、上記のとおり酒酔い運転罪の故意が認められる。また、限界量を超えて飲酒した後運転を行った過去2回において、甲はハンドルを切り損ねてガードレールに衝突しており、甲はかかる事情を周囲に話していたことより、そのことを認識していたといえる。したがって、甲は限界量を超えて飲酒を刷れば事故が前方注視やハンドル・ブレーキの操作が困難な心身状態に陥ることを認識していたといえ、危険運転致死罪の故意も認められる(②充足)。そして、かかる故意が上記実行行為時まで持続していたといえる(③充足)。よって、本件では完全な責任を問うことができる。

(4)したがって、減刑されない。

4.以上より、甲には酒酔い運転罪、危険運転致死罪が成立する。そして、酒酔い運転罪は時間的継続と場所的移動を伴うものであるが、致死行為は一時的一場所における事象であるから、社会見解上別個のものと評価すべきであって、併合罪の関係に立つと解する(40条)。

第2.関連設例について

1.甲の、Eに暴行を加えた行為につき、事後強盗罪(238条)が成立しないか。

(1)本件につき、甲は他人の所有する財物すなわち「他人の財物」たる「嵯峨」店内の備品数点をその占有者の意思に反して自己の占有に移転すなわち「窃取」しているため「窃盗」にあたる(235条)。そして、甲はEの犯行を抑圧するに足りる程度の「暴行」を加え「これを取り返されることを防」いでいる(238条)。これによってEに全治2週間の傷害を負わせており、故意もあるから強盗致傷罪(240条)の構成要件に該当する。

2.もっとも、甲は窃取行為をした段階では完全な責任能力を有していたものの、その後暴行行為に出た段階では、限定責任能力状態にあったといえるので、刑が減刑されないか(39条2項)。事後強盗罪における実行行為をいずれの行為に求めるべきか、問題となる。

(1)ここで、事後強盗罪については、窃盗という身分、すなわち一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊な地位又は身分を取得した者により遂行される真正身分犯と解するべきである。なぜなら、結合犯とすると未遂犯の成立が早期になりすぎるし、不真正身分犯とすると、暴行罪脅迫罪の加重類型となり財産犯としての性格と整合的でないからである。

 そのため、事後強盗罪の実行行為は暴行行為ということとなり、まさにその時点で限定責任能力であった本問では、39条2項が適用されうるようにも思われる。そこで上記原因において自由な行為の理論により罪責を問うことができないか問題となる。

(2)もっとも、事後強盗罪との関係では、飲酒行為を開始した時点で、自己の窃取行為が発覚すれば殴ってでも逃げてやるというような意思を有していたことが必要となるが、そのような事情は存在しない(①不充足)。

3.よって、この場合は、原則通り刑が減刑されることとなる(39条2項)。