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エクササイズ刑事訴訟法第2問覚せい剤自己使用事件

  • 設問1について
  • MとNの職務質問をするために甲に声を掛けた行為は職務質問警察官職務執行法2条1項)として適法か。
  • ア.職務質問は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由がある者に対して行うことができる(警職法2条1項)。

イ.本問において、甲はMらの姿を見た途端に進む向きを変えて小走りに立ち去ろうとするなど不審な挙動をしていた。また、甲は薬物使用者にありがちな、鋭い目つきをして、舌なめずりをしたり、鼻のあたりをかきむしるような動作を示していた。このような甲の行動は異常な挙動と評価でき、薬物犯罪を含む何らかの犯罪に関わっていると疑うに足りる相当な理由があると認められる。よって、甲に声をかけた行為は適法である。

  • Mが甲のウインドブレーカーの上から左ポケット部分を触った行為及びその中に入っていた茶封筒を開けた行為は職務質問に伴う所持品検査として適法か。所持品検査については明文規定がないため、その可否と要件が問題となる。

(1) 所持品検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、職務質問に付随してこれを行うことができると考える。警職法2条1項で認められるとして本件所持品検査は適法か。

ア.所持品検査は任意手段である職務質問の付随行為として許容されるものであるため、所持人の承諾を得て行うことが原則である。もっとも、承諾のない場合であっても、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り許容され、捜索に至らない程度の行為であっても状況のいかんを問わず常に許容されるものではなく、その必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されると解すべきである。

イ.まず、ウインドブレーカーの上から左ポケット部分を触った行為については、確かにMの「ポケットの中の物を見せてもらってもいいですか」という問いかけに対し、甲は「……別に何も入っていない」と答えていることより、甲の承諾があったということはできない。しかし、ポケットを外から触る行為は所持品に対するプライバシー侵害の程度が低く、行為態様としても探索的な行為や破壊を伴う行為を行っているわけではないため、「捜索」に至らない程度の行為であったといえる。

2条3項により所持品検査において禁止される強制は、刑訴法197条1項但書の「強制の処分」と同義であるが、Yを羽交い締めにする等の行為を伴うものでもないため意思制圧は認められず、強制には当たらない。しかしながら、ポケットを上から触っているため、具体的状況のもとで相当といえるかが問題となる。

甲はNに声をかけられた際とっさにかかるポケットに視線を送っていたし、ポケットは内容物で盛り上がった様子があり、中に何かが入っていることが明らかな様子であったのであるから、何も入っていないという発言をすることは不自然なことであるから、ポケット内のものを確認する必要性が認められる。さらに、薬物等は処分が容易なものであって、その場で確認しなければ短時間で証拠を隠滅される可能性が高いのであるから、ただちに確認する緊急性もあったといえる。また前述のようにポケットを上から触る行為はプライバシーを侵害する程度が低いといえるため、かかる行為は相当であったといえる。

次に、かかるポケットの中から甲が取り出しMに渡した茶封筒をMが開けた行為について、Mがポケットの中の物を「取り出して見せてもらえませんか」と甲に尋ねた際、甲は抵抗することなくMに本件茶封筒を渡しており、Mの「中身を見ますよ」との発言に対し、甲は黙っていたが、抵抗することはなかったことから黙示の承認があったということができる。

したがって、本件所持品検査は適法である。

  • M及びNが甲にL警察署への任意同行し、甲がL警察署に出頭したことは適法か。
  • 任意同行とは、被疑者取調べを目的とした出頭確保のために行なわれるものである(刑訴法198条1項)。
  • 甲の所持品から使用済み注射器が発見されたこと及び甲の覚せい剤取締法違反前科が判明したことに鑑みると、甲に対する覚せい剤自己使用罪の嫌疑が高まっていることから、Xに対する取調べの必要性が認められ、本件任意同行はこの取調べを目的として行なわれている。甲はM及びNの求めに応じて出頭しているため、任意捜査として適法である。
  • O及びPは甲に繰り返し尿の任意提出を求めるも、甲は頑なに拒絶した。このような状況のもと、OとPは令状を呈示して強制的に甲をL警察署から約1㎞離れたQ病院に連行している。逮捕している被疑者は逮捕の効力として連衡が許されるものの、本件では逮捕がなされていないため、強制採尿令状の効力として採尿場所への連行が可能か問題となる。
  • そもそも強制採尿令状を発付する際、医師そして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない等の要件が付せられる以上、令状裁判官としてはその場で強制採尿が困難な事情がある場合には、強制採尿を許可する以上、被疑者を適切な場所まで連行して行わせることの当否まで審査し、これについても許可したものと考えるのが合理的である。また、設備がない場所だと物理的に強制採尿が不可能なので、連行ができないと強制的に尿を採取するという強制採尿令状の目的を達成することができない。身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと考える。
  • 本件において、被疑事実は覚せい剤自己使用罪という10年以下の懲役刑が定められている事件で重大なものであり、薬物使用者特有の挙動があったこと、注射器を所持していたこと、同種の前科を有すること、尿の任意提出を拒否していたこと等から、嫌疑は高いといえる。また、覚せい剤使用の有無について判定するには一般的には尿検査以外の実用的な方法がないため、被疑者に尿の任意提出の機会があるにもかかわらずこれに被疑者が応じなかったという事情があれば強制採尿の必要性・相当性が認められる。そして、本件採尿場所たるQ病院は夜間でも医師が当直勤務をしていた、医師が現在し、医療行為を行うのに必要な衛生設備や医療器具が用意され、かつ、被疑者の健康等を不必要に害しないための暖房等の設備を備えた場所であり、採尿に適する場所であったといえる。そして、Q病院はL警察署の最寄りの病院であり、L警察署から約1㎞という近い距離の場所にあった。

(3)以上より、本件強制連行は適法である。

第2.問2について

  • 検察官の記載した訴因は、犯行の日時が「平成28年5月下旬頃から同年6月7日までの間」、場所が「K県内又はその周辺」覚せい剤の量が「若干量」と概括的な記載がなされているが、訴因が「特定」(256条3項)されているといえるか。特定されていない場合は公訴棄却(338条4号)となりうるため、問題となる。

2.(1)訴因とは、罪となるべき事実とこれを具体化する日時・場所・方法から構成されるものであり、罪となるべき事実が特定の構成要件に該当する事実であることから、訴因が特定されているといえるためには、まず、特定の構成要件に該当することが判別できる程度に具体的事実が示されていることが必要である。もっとも、日時・場所・方法は、それが構成要件要素である場合を除き、罪となるべき事実そのものではなく、訴因を特定する一手段に位置づけられる。

 また、当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項)の下で検察官が審判対象として設定したものが訴因であるため、審判対象の画定という見地から、他の犯罪事実と識別できる程度に具体化されたものであることが必要である。

 そして、256条3項が「できる限り」の特定を要求していることから、犯罪の種類、性質等の如何により、犯罪の日時・場所・方法等を詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、概括的に表示された部分と明確に表示された部分が相俟って、特定の構成要件に該当することが認識でき、他の犯罪事実と識別できる程度に特定されていれば、検察官は証拠に基づいてできる限り訴因の特定を行ったものといえる。

(2)本件において、前述のとおり、検察官の記載した訴因は、犯行の日時が「平成28年5月下旬頃から同年6月7日までの間」、場所が「K県内又はその周辺」覚せい剤の量が「若干量」と概括的な記載がなされている。もっとも、本件の訴因は覚せい剤自己使用罪に係るものであるところ、その構成要件に該当するとの判断は自己について覚せい剤を使用したことを示せばよく、覚せい剤の量が概括的なものであったとしても同構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実が記載されているといえる。

 確かに、覚せい剤は短期間のうちに複数回使用することが可能であり、かつ、一回の使用につき一罪が成立し、それぞれは併合罪となることからすれば、かかる概括的記載では、他の覚せい剤自己使用罪との識別ができないようにも思われる。しかし、検察官が冒頭手続き等において、訴因に記載した期間内に2回以上の使用行為があったとすれば、そのうち尿の提出時に最も近い1回を起訴した趣旨であると釈明(規則208条1項)することにより、一つの使用行為がほかの覚せい剤自己使用罪と識別することが可能となる。よって他の犯罪事実と識別できる程度に具体化されたものであるといえる。

覚せい剤自己使用事件は密行性の高い犯罪であることに加え、捜査段階で甲が供述を拒み、「なんで尿から覚せい剤が出たのかわからない」などと繰り返したなどの事情から、起訴当時の証拠関係に照らし、概括的な日時・場所・方法による基礎を行うとの検察官の判断にも相応の理由があるといえる。

(3)以上より、本件において訴因が特定されているといえる。

  • 上記のような概括的な日時・場所・方法による起訴がなされた後、公判廷で甲が問題文5に記載されているような具体的な状況を供述し、担当検察官が収集済みの証拠と同供述を照合しても、特段の矛盾点はみつからなかった場合、裁判所はどのように対応すべきか。

(1)公判廷における証拠調べの結果、被告人の公判廷における自白が信用できると認められる場合、証拠調べ終了時においては、検察官は、使用の日時・場所・方法を具体的に特定した訴因によって公訴を追行することができる状態にある。そもそも、日時・場所・方法を具体的に特定しない訴因の記載が許されていたのは、前記のとおり、これを特定することができない事情が存在したためであって、公判審理の過程でその事情が解消したときは、検察官は、原則に戻り、日時・場所・方法を具体的に特定した公訴事実により公訴を追行するのが本来の姿である。したがって、検察官は、訴因を補正し、日時・場所・方法を具体的に表示すべきであろう。検察官が進んで訴因の補正をしない場合、裁判所は、釈明権を行使して、検察官に訴因の補正を促すべきであろう。なお、釈明権の行使にもかかわらず、検察官が訴因の補正に応じなかった場合は、裁判所において公判廷の自白に基づき特定した具体的事実を罪となるべき事実として認定することは可能であると考える。

(2)本件において、公判廷で甲が「覚せい剤を又使ってしまい、反省しています。」と述べ、犯行日時について「警察官から同行を求められた数時間前の平成28年6月6日午後7時頃」、場所について「K警察署近くのR公園の公衆便所の個室で、」方法について「自分の左ひじの内側に、注射器を使って覚せい剤水溶液を注射して使いました。」と具体的な状況を供述し、さらに「覚せい剤の入手先は、知り合いの暴力団員で、公衆電話を使って連絡意をとりました。」と入手先についても明らかにしている。したがって、検察官は、使用の日時・場所・方法を具体的に特定した訴因によって公訴を追行することができる状態にあるといえるので、検察官は、訴因を補正し、日時・場所・方法を具体的に表示すべきである。