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エクササイズ刑事訴訟法第4問覚せい剤密売事件

  • 設問1について
  • まず、Nの行った、甲に覚せい剤の購入を持ちかけることをAに依頼し、それによって甲を現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下略)213条)している捜査は、おとり捜査にあたらないか。
  • ア.おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙することをいう。
    • 本件において、N警部補の依頼を受けたAが、その身分や意図を甲に秘して覚せい剤をAに売却するように働き掛け、甲がこれに応じて待ち合わせ場所に指定した公園に現れ、ポケットから覚せい剤を出したところで現行犯逮捕により検挙されているため、おとり捜査にあたる。
  • おとり捜査については、明文規定がない。刑訴法上、任意捜査であれば明文の規定なく行なうことができるが、強制捜査であれば明文の規定が必要である。このように、法的性質によって規律のあり方が異なるため、おとり捜査の法的性質が問題となる。

ア.強制処分に該当する場合、197条1項但書により、刑訴法に特別の定を必要とする。また、強制処分に該当する捜査手法を用いる場合には、事前の令状審査が必要になる。このように立法による統制を受けるほどの処分であるため、強制処分とは、個人の意思を制圧し、身体・住居・財産等に制約を加える処分を意味すると考える。身体・住居・財産とは、憲法33条・35条で保障される利益と一致する。したがって、憲法33条・35条で保障される利益やそれに準ずる法的利益も強制処分法定主義による保護を受ける利益にあたると解する。

 イ.おとり捜査の対象となった者がその事実を知れば応じることはないと合理的に判断できるため、おとり捜査は合理的に推認される個人の意思に反し、意思制圧があった場合と同視することができる。しかし、捜査機関側の働きかけがあったとしても、自己の自由な意思決定で犯罪の実行に及んでいるため、強制処分法定主義による保護を受けるに値する権利・自由の侵害はない。よって、おとり捜査は「強制の処分」としての性質を有しない任意捜査に当たる。

(3)ア.もっとも、任意捜査であるとしても、犯罪の実行に一定程度国家が関与するものでるため、無制約のものと解することはできない。したがって、少なくとも、①直接の被害者のいない薬物犯罪等の捜査であること、②通常の捜査手法のみでは当該犯罪の摘発が困難であること、③機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象とするものである場合には、おとり捜査は任意捜査として許容される。

イ.本件おとり捜査の対象は甲の覚せい罪取締法違反であり、直接被害者のいない薬物犯罪にあたる(①充足)。また、Nは密売人甲を逮捕するため、既にAの供述した携帯電話番号につき携帯電話会社に契約者の照会をするなど所要の捜査を遂げていたものの、当該電話番号の実際の使用者が特定できていないなど、密売人の検挙が困難な状況であったというのだから通常の捜査手法のみでは当該犯罪の摘発が困難であったといえる(②充足)。甲は覚せい剤の密売人であって既に覚せい剤を所持しており、有償譲渡を企図して買い手を求めていた疑いがあるから、本件おとり捜査は機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象とするものであるといえる(③充足)。

(4)以上より、本件おとり捜査は任意捜査として適法である。

  • 本件現行犯逮捕に伴う検証としての本件予試験は適法か。

(1)本件では、無令状で検証としての予試験をしており、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に違反するのが原則である。令状主義の趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対し、逮捕に伴う検証が無令状で行える(220条1項)趣旨は、本来令状主義の下、「理由」として被疑事実と関連する検証すべきものの関連性を令状裁判官が審査すべきところ、逮捕の現場には一般的に被疑事実に関連する検証すべきものの蓋然性が高く令状審査が不要である点にある。

(2)本件では、甲を現行犯逮捕(213条)する直前に予試験を行っており「逮捕する場合」に当たる。また、直後に現行犯逮捕される場所において予試験を行っているから「逮捕の現場」にあたる。しかし、本件で差し押さえた物は関連性を有するか。逮捕に伴う捜索差押の物的限界が明文上明らかでなく問題となる。

(3)上記220条1項の趣旨より、逮捕に伴う捜索差押えで差し押さえることができる物とは、逮捕の基礎となった被疑事実に関連する物であると考える。

(4)本件の被疑事実は覚せい剤営利目的所持であるところ、上記封筒の内容物は、甲A間売買契約の目的物であって、本件予試験によって覚せい剤の反応がでているものであるから、被疑事実との関連性が認められる。

(5)以上より本件予試験は適法である。

  • 本件現行犯逮捕は適法か。
  • 逮捕を行うためには原則として令状が必要となる(憲法33条、刑訴法199条)。令状主義の趣旨は上記である。これに対して、現行犯逮捕の場合には、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから誤認逮捕のおそれが低く、他方で犯人逮捕の必要性も高いことから、令状主義の例外として無令状で行うことが許される。したがって、現行犯人に当たるとして現行犯逮捕が適法とされるためには、①犯罪と犯人の明白性、②犯罪と逮捕行為との時間的接着性、③逮捕の必要性が必要となる。①犯罪と犯人の明白性を判断するにあたっては、逮捕現場の客観的事情、現場における被害者の挙動、その他逮捕者らが直接覚知した客観的事情を資料とするが、被害者・目撃者の通報・供述・被逮捕者の供述も、客観的資料を補充するものとして認定資料とすることができる。また、現行犯逮捕について逮捕の必要性に関する明文規定はないが、現行犯逮捕も逮捕の一類型であることに鑑みて、③逮捕の必要性が要件になると解する。
  • 甲は覚せい剤を売却するよう電話で持ち掛けてきていたAに対して「はい、2万円」と言いながら封筒上のものを取り出しており、その内容物につき覚せい剤の反応がでている。かかる行為をNとその部下の警察官に現認されている。よって、甲が覚せい剤を営利目的で所持していたことは明白であり、犯人と犯罪の明白性が認められる(①充足)。また、甲は予試験の結果が出るとその場でただちに現行犯逮捕されていることより、時間的場所的接着性が認められる(②充足)。前述のようにNらが甲の犯罪行為を現認しているのであるから甲の嫌疑は高く、逮捕の必要性が認められる(③充足)
  • 以上より、本件現行犯逮捕は適法である。
  • もっとも、現行犯逮捕後の事情であるが、本件現行犯逮捕に伴う、上記封筒、その内容物及び携帯電話機1台の差し押さえは適法か。
  • 本件では、無令状で差押をしており、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に違反するのが原則である。令状主義の趣旨は上記である。これに対し、逮捕に伴う捜索差押が無令状で行える(220条1項)の趣旨は、上記である。
  • 本件では、甲を現行犯逮捕(213条)した直後に捜索しており、「逮捕する場合」に当たる。また、現行犯逮捕された場所において差押されているから「逮捕の現場」にあたる。しかし、本件で差し押さえた物は関連性を有するか。逮捕に伴う捜索差押の物的限界が明文上明らかでなく問題となる。
  • 上記220条1項の趣旨より、逮捕に伴う捜索差押えで差し押さえることができる物とは、逮捕の基礎となった被疑事実に関連する物であると考える。
  • 本件の被疑事実は覚せい剤営利目的所持であるところ、上記封筒及びその内容物は、甲A間売買契約の目的物であって、予試験によって覚せい剤の反応がでているものであるから、被疑事実との関連性が認められる。
  • 以上より、本件差押えは適法である。
  • 設問2について
  • Aは事情聴取にて覚せい剤の購入先が甲であったことを認め、その内容は捜査報告書に取りまとめられている。Aは公判廷においても同様の供述をしている。また、Bも取調べにおいて覚せい剤の入手先が甲であったことをみとめ、その内容は捜査報告書に取りまとめられている。これに対し、Bは証人尋問で覚せい剤の入手先が甲であることを否定する供述を行っている。

そのため、NがA、Bの捜査段階における供述を取りまとめた捜査報告書についてはi甲の覚せい剤営利目的所持の事実を証明するための証拠として証拠請求する。また、ii Bの証人尋問時における供述の信用性を弾劾する証拠として証拠調請求するということが考えられる。

  • 本件捜査報告書及びBの供述調書は「公判期日における供述に代えて書面」(以下伝聞証拠とする)にあたり、証拠能力が否定されないか。そこで本件供述は伝聞証拠に当たるかが問題となる。
    • そもそも、320条1項により伝聞証拠が証拠能力を否定されている趣旨は、供述証拠は人の知覚、記憶、表現、叙述という過程を経るため、その各過程で誤りが生じる恐れが高いにもかかわらず、宣誓(154条、規則116~120条)、反対尋問、偽証罪による制裁、裁判所による観察という真実性の担保に欠ける点にある。とすれば、伝聞証拠とは①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②要証事実との関係で現供述の内容の真実性が問題となるものをいうと考える。
    • 本件の捜査報告書記載のNの供述及びBの供述調書記載のBの供述はいずれも公判廷外の供述であり、①を満たす。次に、②について、本件の公訴事実は覚せい剤営利目的所持罪である。そして、甲は営利目的について否認している。そして、立証趣旨は、検察官の意見を総合して考えると「甲の営利目的」である。これを立証することで甲が覚せい剤を営利目的で所持していたことが推認される。よって、要証事実は「Bが甲から覚せい剤を購入していたこと」であり、これはN及びBが知覚・記憶・表現・叙述した内容を問題にするため、内容の真実性が問題となる。よって、伝聞証拠にあたり、同意なき限り(326条1項)証拠能力が否定されるが、本件でBはこれを不同意としている(326条1項)したがって、原則として証拠能力は認められない。
    • もっとも、法は証拠とすべき必要性と、信用性の情況的保障が認められる場合には、伝聞証拠であっても例外的に証拠能力を認めている(伝聞例外、321条以下)。そこで本件捜査報告書及びBの供述調書も伝聞例外として証拠能力が認めれられないか。捜査報告書および供述調書は321条1項3号の要件を満たすか以下検討する。
    • 捜査報告書及び供述調書はいずれも「検察官の面前における供述を録取した書面」(321条1項2号)にあたらないから「前2号以外に掲げる書面以外の書面」にあたる。もっとも、供述不能の要件を満たさない。したがって証拠能力は認められない。
  • もっとも、要証事実を「Bの公判廷供述が信用できないこと」と考えた場合はどうか。本件捜査報告書及び供述調書は328条の証拠とならないか検討する。
  • そもそも、328条の趣旨は、供述内容の真実性が問題とならない証拠を弾劾証拠として法廷で利用することができる旨を注意的に規定した点にある。そして、公判準備又は公判期日における当該証人の供述と矛盾するその承認自身の供述、すなわち、自己矛盾供述であれば、そのないようの真実性を度外視しても、自己矛盾供述の存在自体で公判での証人の供述の証明力を減殺する効果があるのに対し、当該証人の証言とは矛盾するが、それが当該証人以外の第三者の供述である場合には、その第三者の供述が真実でなければ証人の証言の証明力を減殺する効果は認められない。そのため、「証拠」とは、供述内容の真実性が問題とならない自己矛盾供述に限定されるものと考えるべきである。
  • 本件において、本件捜査報告書のBの供述部分及びBの供述調書に記載されているBの捜査段階における供述は、証人質問において供述したB自身の自己矛盾供述に該当する。

他方、捜査報告書のうちAの供述部分については、内容においてはBの公判廷供述と矛盾する可能性もあるが、同一人物のものでないから弾劾証拠には当たらない。

  • もっとも、本件捜査報告書及び供述調書につき、供述者A、Bの署名押印がないが、このような書面に証拠能力が認められるか。明文上328条では署名・押印を要求していないため問題となる。
  • そもそも、321条1項柱書及び322条1項が供述録取書に証拠能力を付与する要件として供述者の署名・押印を要求した趣旨は、供述者の供述を録取者が書面化する過程の伝聞性を考慮し、供述録取書の記述の内容を供述者自身に認証させることによって、その真実性・正確性を確保し、その伝聞性を排除することで、録取者に対する反対尋問を不要とした点にある。そうだとすれば。328条で許容される証拠は供述者が供述する過程の伝聞性が自己矛盾供述であるため問題とならないということであり、録取者の書面化する過程の伝聞性は署名・押印なしでは排除されないため、原則として署名・押印を欠いたとしても、署名・押印と同視しうる事情が存在する場合には例外的に証拠能力が認められるものと考える。
  • Bの供述調書については、Bの署名・押印がない。もっとも、署名・押印と同視しうる事情とは供述録取過程について326条の同意がある場合、あるいは供述の記載の正確性を担保する外部的情況が存する場合等にはこれに当たるといえる。本件Bの供述調書については、Bの公判廷供述が存在し、それに先立ち矛盾する供述をしていたという事実を立証するものであり、供述録取書の形式がとられていることより、例外的に証拠能力が認められるといえる。

 捜査報告書のうちBの供述部分については、その形式においてNがBから聞き取ったという形になっており、署名・押印と同視しうる事情があるとはいえないから、証拠能力は認められないといえる。