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エクササイズ刑事訴訟法第9問強盗事件

  • 設問1について
  • N及びOの職務質問をするために甲乙に「ちょっといいですか」と声をかけた行為は適法か。
  • 職務質問は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者に対して行うことができる(警職法2条1項)。本件職務質問は強盗事件発生後わずか30分後に現場から2㎞というほど近く離れた路上で、被害者の述べた犯人の特徴と一致する黒のジャージ上下と白のジャージ上下の男2人組に対して行われている。さらに、N及びOが「ちょっといいですか」と声をかけたところ、黒いジャージの男は走って逃げようとした。かかる行動は異常な挙動と評価でき、犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるといえる。
  • 以上より、NおよびOの上記行為は適法である。
  • Nの逃走しようとした黒いジャージの男を追いかけ、数m先で肩をつかんで停止させた行為は適法か。
  • 警職法2条1項は前述の相当理由のある者を停止させて質問することができると定めている。「停止させて」という文言から一定の有形力の行使が予定されていると考えられるが、2条3項が身柄拘束を含む強制手段を禁じている。

 2条3項が禁止する強制手段は、「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り」行えないものであるため、その意義は刑訴法197条1項但書の「強制の処分」と同義であると解すべきである。すなわち、相手方の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加える処分を意味すると考える。また、1条2項により、停止のための有形力の行使は必要最小限度のものでなければならない。したがって、停止のための有形力の行使は身柄拘束に至らない程度で、強制にわたらない限り許容され、身柄拘束に至らない有形力の行使であっても状況のいかんを問わず常に許容されるものではなく、その必要性、緊急性、これにより害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ許容されることになる。

  • 本件において、Nは黒いジャージの男の肩をつかんだだけであるため、身体拘束に至っていない。また、職務質問の前提事情が存在する中で走って逃走しようとする者に対してとっさになされたものであるため、相手方の意思を制圧する行為であるとはいえない。また、黒いジャージの男は逃走しようとしているのであるから、これを停止させる必要性及び緊急性は高いといえる。これに対して、黒いジャージの男が被る不利益は、ごく短時間における身体への接触にとどまり、具体的状況のもとで相当であるといえる。
  • 以上より、Nの上記行為は適法である。
  • Oの乙の持つレジ袋の外側からレジ袋を触った行為は職務質問に伴う所持品検査として適法か。所持品検査については明文上規定がないため、その可否と要件が問題となる。

(1)所持品検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、職務質問に付随してこれを行うことができると解すべきである。また、任意手段である職務質問の付随行為として許容されるものであるため、所持人の承諾を得て行うことが原則となる。しかし、承諾のない場合であっても、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り許容され、捜索に至らない程度の行為であっても状況のいかんを問わず常に許容されるものではなく、その必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されると解すべきである。

(2)Oは白いレジ袋の口を右手に提げている乙に対し「中に何が入っているのですか」と尋ねたが乙は黙っており、Oが上から中を覗き込もうとしたところ、乙はレジ袋の口を握って後ろ手に持ち替えている。よって、乙はレジ袋の中身を確認することを承諾していなかったといえる。もっとも、Oはレジ袋の中身の確認を乙が拒否しているにもかかわらず、「ちょっと失礼します」と言いながらレジ袋の外側からレジ袋を触っているが、探索的な行為や破壊を伴う行為を行っているわけではないため、捜索には至っていない。

 2条3項により所持品検査において禁止される強制は、停止と同様、刑訴法197条1項但書の「強制の処分」と同義であるが、乙を羽交い締めにする等の行為を伴うものでもないため意思制圧は認められず、強制には当たらない。しかしながら、レジ袋を外側から触っているため捜索に類する行為ということができ、具体的状況のもとで相当といえるかが問題となる。

 本問の職務質問は、上記犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある甲乙に対して行われたものであり、また、所持品検査も任意の提出を拒む乙に対して行われたものである。このような現場の状況や態度から、乙が本件強盗事件に関与している嫌疑が存在し、所持する物品が強盗に用いられたカッターナイフ等であれば廃棄されてしまうおそれがあるから所持品検査の必要性と緊急性が認められる。態様もレジ袋を外側から触るというプライバシー侵害の程度の低いものであり相当といえる。

(3)以上より、上記所持品検査は適法である。

4.N及びOの刑事訴訟法(以下略)212条2項に基づく甲乙の準現行犯逮捕は適法か。

(1)逮捕を行なうためには原則として令状が必要となる(憲法33条、刑訴法199条)。その趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対して、現行犯逮捕の場合には、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから誤認逮捕のおそれが低く、他方で犯人逮捕の必要性も高いことから、令状主義の例外として無令状で行うことが許される。準現行犯逮捕も現行犯逮捕の一種として無令状で行うことが許される。それは、犯行から時間が若干経過した後であって、逮捕者が犯行を現認していることはないが、現認した場合と同様に扱うことができるほど犯罪と犯人の明白性が認められる場合であって、誤認逮捕のおそれが少ないと認められるからである。したがって、準現行犯逮捕が適法とされるためには、①212条2項各号のいずれかひとつに当たること、②犯罪と逮捕行為の時間的接着性とその明白性、③犯罪と犯人の明白性、④逮捕の必要性が必要となる。

 準現行犯逮捕は、犯罪と逮捕行為との間の時間的接着性の要件を緩和する一方で、犯罪と犯人の明白性を客観的に担保するため、各号の事由の充足を要求する。したがって、各号の事由については、逮捕者が直接覚知することが必要である。

(2)乙については、所持していたレジ袋を外から触ると髪のような感覚の中に、硬い金属様の感触があったことから、犯罪を組成したものを所持しているといえるから2号該当性が認められる。甲については、N及びOに声をかけられると走って逃走しようとしたことから「誰何されて逃走しようとするとき」にあたり4号該当性がある(①充足)。

 本件逮捕は、事件発生からわずか約50分後に、現場から約2㎞という近接した場所において行われており、時間的・場所的接着性があるといえる(②充足)。

 犯罪と犯人の明白性については、上記各号事由該当性及び時間的・場所的接着性に加え、甲乙が被害者の述べた犯人の特徴と一致する黒のジャージ上下と白のジャージ上下の男2人組であり、白いジャージ上下の乙は長髪であったこと、逃走方向も東で合致していたこと、甲が2人で強盗をしたことを認めたこと、乙がレジ袋の中身をのぞかれないような行動をとったことなどから、総合考慮し、「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき」といえる(③充足)。

(3)本件被疑事実は死刑となることもありうる強盗事件という重大犯罪であり、上記のように犯罪の犯人の明白性が認められている以上、逮捕の必要性があるといえる(④充足)。

(4)以上より、本件準現行犯逮捕は適法である。

  • 設問2について

1.本件甲の供述調書及び録音・録画記録媒体たるDVDは「公判期日における供述に代えて書面」(以下伝聞証拠とする)にあたり、証拠能力が否定されないか。そこで本件供述は伝聞証拠に当たるかが問題となる。

(1)そもそも、320条1項により伝聞証拠が証拠能力を否定されている趣旨は、供述証拠は人の知覚、記憶、表現、叙述という過程を経るため、その各過程で誤りが生じる恐れが高いにも関わらず、宣誓(154条、規則116条~120条)、反対尋問、偽証罪による制裁、裁判所による観察という真実性の担保に欠ける点にある。とすれば、伝聞証拠とは①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②要証事実との関係で現供述の内容の真実性が問題となるものをいうと考える。

(2)本件甲の供述は公判廷外の供述であり①を満たす。本件立証趣旨は、「乙と共に犯行に及んだこと」、つまり事前共謀及び共同実行事実等と考えられ、現供述内容の真実性が問題となるから②を満たす。したがって、これらは伝聞証拠に当たる。

2.もっとも、法は証拠とすべき必要性と、信用性の情況的保障が認められる場合には、伝聞証拠であっても例外的に証拠能力を認めている(伝聞例外、321条以下)。そこで、本件供述証拠及び録音・録画記録媒体たるDVDも伝聞例外として証拠能力が認められないか。まず、本件供述調書は「検察官の面前における供述を録取した書面」にあたるので、321条1項2号の要件を満たすか、以下検討する。

(1)ア.321条1項2号後段の「前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述」とは、それ自体又は他の証拠と相まって要証事実との関係で異なった認定を導くものをいうと考える。

イ.本件において、乙の公判廷における甲の供述は、事前共謀の存在や乙の犯行への関与が要証事実となると考えられる。この点、甲の検察官の面前における供述調書はこの点につき詳細な供述がなされており、同供述から要証事実を優に認定し得る。これに対し、乙の公判廷での甲の供述は「事件のことはよく覚えていない」「共犯者のことは言いたくない」「乙が逮捕直前に自分と会ったと言っているなら、そうだったかもしれない」などというもので、同供述では要証事実を認定することは困難であることから、両供述は異なった認定を導くものといえ、「前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述」にあたる。

(2)それでは、「信用すべき特別の状況」(321条1項2号但書)があるといえるか。

ア.そもそも、特信情況は、証拠能力を与えるための要件であって、公判廷における供述と前の供述とのいずれの証明力が高いかという証拠価値の比較の問題ではない。そのため、特信情況の有無については供述の内容の信用性の比較に求めるのではなく、当該供述のなされた際の外部的付随事情を基準として判断すべきと考える。もっとも、供述内容自体も外部的付随事情の存在を推測させる資料の1つとして考慮することはできるものと考える。

イ.本件において、乙は甲の中学時代の先輩であり、暴力団関係者であるため、甲が乙の公判廷において、心理的圧迫から乙に対して不利益な供述をすることが困難な状況が認められるといえる。よって、公判供述の信用性を低下させるような外部的付随事情があったといえる。また、甲の公判供述の内容をみても、「事件のことはよく覚えていない」「共犯者のことは言いたくない」「乙が逮捕直前に自分と会ったと言っているなら、そうだったかもしれない」などと乙の供述に合わせるような姿勢が見えるなど不自然・不合理なもので乙からの心理的圧迫があったと推認でき、信用性が低いといえる。これに対して、甲の検察官の面前における本件供述調書の内容は、逮捕時における供述とも一致し、具体的で、乙の公判廷における供述にみられるような心理的圧迫を受ける情況にもなく、相対的に特信情況が認められる。

(3)以上より、甲の本件供述調書につき、321条1項2号後段より証拠能力が認められる。

4.次に、録音・録画記録媒体たるDVDは伝聞例外として証拠能力が認められるか。

(1)この点、321条以下の伝聞例外規定は、主に供述書・供述録取書を想定しているものと考えられるが、録音・録画記録媒体についても、被疑者等の供述を録取したという点で同様であり、むしろ機械的に録音・録画されている点において供述書・供述録取書よりも正確性が高く認められるから、信用性は高いといえる。したがって、書面につき伝聞例外該当性が認められる場合、録音・録画記録媒体についても伝聞例外として証拠能力が認められる。

(2)以上より、本件録音・録画記憶媒体たるDVDは証拠能力が認められる。