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旧司平成16年度第1問憲法

【問題】

13歳未満の子供の親権者が請求した場合には,国は,子供に対する一定の性的犯罪

を常習的に犯して有罪判決が確定した者で,請求者の居住する市町村内に住むものの氏

名,住所及び顔写真を,請求者に開示しなければならないという趣旨の法律が制定され

たとする。この法律に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。

 

【解答】

 

  • Xとしては、本件法律はXのような過去に性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者の氏名、住所及び顔写真等の個人情報をみだりに他人に知られない自由(憲法13条)を侵害し違憲であると主張する。

(1)個人の私的領域を保護する趣旨から、憲法13条により自己情報コントロール権としてのプライバシー権が保障される。

 本件においても、上記私的領域を保護する趣旨に鑑みて、上記個人情報をみだりに他人に知られない自由は憲法13条により保障される。また、Xのような子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者の上記個人情報を公開すると、その者らが性犯罪を犯したことまでも公開することとなる結果、その者らの前科を公開することに等しい。

(2)本件において、Xのような過去に性犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者は、氏名、住所、顔写真について、13歳未満の子供の親権者が請求した場合にはそれを開示されることとなっており、上記自由の制約がある。

(3)氏名、住所、顔写真といった個人情報はそれにより個人を特定することができる情報といえるから、それらを他人にみだりに知られない自由の重要性は高いといえる。加えて、前科というのは人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科をみだりに公開されない自由の重要性は非常に高い。

 また、本件開示は、13歳未満の子供の親権者であればだれでも請求できるところ、本件開示で知りえた事情を人に話すことも十分に考えられるから、本件開示によりXのような犯罪を犯した者の個人情報は広く知れ渡ることとなりうる。Xのような者は自己が過去に性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定したことを多くの者に知られれば、平穏な社会生活を送ることが困難となることから、上記個人情報を知られない自由の侵害による制約の強度は強いといえる。

(4)権利の重要性が高いこと及び制約の強度が強いことより、本件法律は真にやむを得ない利益のために必要不可欠かつ必要最小限度の立法手段でなければ違憲であると考える。

本件法律の目的は、再犯率が高いとされる性犯罪者から未成年者を保護する点にあると考えられる。もっとも、性犯罪の再犯率が他の犯罪と比べて高いという立法事実が存在しない以上、性犯罪の再発防止目的は真にやむを得ない利益とはいえない。

 また、上記性犯罪者の氏名、住所及び顔写真を請求者に公開することは、かかる犯罪者の住居を特定することを可能とするものである。かかる犯罪者の住む地域の未成年者を保護するために注意を促すことを目的とするのであれば、かかる犯罪者の住む地域のみを開示することで足りるといえるから、手段の必要最小限度性を欠く。

(5)以上より、本件法律は上記自由を侵害し違憲である。

2.被告側は、以下のように反論する。

(1)まず、氏名や住所などの単純情報は憲法13条により保障されない。顔写真も、通常容貌というのは他者に見られることを受忍しているものであるから、憲法13条により保障されない。また、前科情報も公的情報であることから、憲法13条により保障されているといえない。

(2)仮に保障されるとしても、上記情報は秘匿されるべき重要性は高いとは言えず、厳格審査は妥当しない。かかる場合、目的が正当で、手段が目的と合理的関連性を有すれば合憲と考える。

(3)本件目的は、性犯罪から未成年者の生命身体を保護する点にあり違法とはいえないから正当である。本件手段は上記情報を請求者に開示することであり、上記目的に資するものであるから合理的関連性を有する。

(4)以上より、本件法律は合憲である。

3.以下、私見を述べる。

(1)氏名住所等は確かに単純情報であるが、自己の望まない他者にこれを開示される場合には個人の私生活領域が害されるといえる。よって、上記憲法13条の趣旨に反するから13条の保障を受けると考える。

 顔写真については、被告側の反論のとおり容貌は他者からみられることを受忍しているものであるが、自己の知りえない場所においてまで自己の容貌をみられることを受忍しているとはいえない。さらに、現代の情報社会においては顔写真が開示されることにより私生活領域は侵害されうる。したがって、13条により保障されると考える。

 前科は、確かに公的情報であるが、一般的に時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項であり、前科を公表されれば私生活領域が著しく侵害されうるから、13条により保障されると考える。

(2)上記情報は個人の私生活領域を侵害し得る。さらに現代の情報社会においてはこれらの情報が組み合わさることで、容易に個人を特定することができる。したがって、上記情報は秘匿性の高いものであり、これらを公表されない自由は重要な権利といえる。また、これらの情報が公開されれば個人の私生活領域は著しく侵害されるといえる。

(3)したがって、目的が必要不可欠で手段が最小限度でなければ違憲と考える。

ア.本件目的は性犯罪者から未成年者の生命身体を保護する点にあるところ、生命身体という法益憲法によって保護される重要な者であり、必要不可欠といえる。

イ.本件手段は上記情報を請求者に対し公表することである。この点、たとえ請求者という限られた人に情報を公表しても、同市町村内にいる住民に情報が伝播され、情報を公表された者の自由が著しく侵害されるおそれが高い。また、情報を警察官のみに開示して、パトロールを強化することにより、上記目的を達成するというより制限的でない手段もとることができるのであるから、本件手段は必要不可欠とは言えない。

(4)以上より、本件法律は憲法13条に違反し違憲であると考える。