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エクササイズ刑事訴訟法第12問覚せい剤所持事件

  • 設問1について
  • 逮捕に伴う捜索差押の前提として本件甲の現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下略)213条)は適法か。

(1)逮捕を行なうためには原則として令状が必要となる(憲法33条、刑訴法199条)。その趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対して、現行犯逮捕の場合には、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから誤認逮捕のおそれが低く、他方で犯人逮捕の必要性も高いことから、令状主義の例外として無令状で行なうことが許される。

したがって、現行犯人に当たるとして現行犯逮捕が適法とされるためには、①犯罪と犯人の明白性、②犯罪と逮捕行為との時間的接着性、③逮捕の必要性が必要となる。犯罪と犯人の明白性を判断するに当たっては、逮捕現場の客観的事情、現場における被害者の挙動、その他逮捕者自らが直接覚知した客観的事情を資料とするが、被害者・目撃者の通報・供述、被逮捕者の供述も、客観的資料を補充するものとして認定資料とすることができる。また、現行犯逮捕について逮捕の必要性に関する明文規定はないが、現行犯逮捕も逮捕の一類型であることに鑑みて、逮捕の必要性が要件になると解する。

(2)本件において、甲は予試験を実施して覚せい剤成分の反応が出ている以上は犯人の明白性が認められているといえる(①充足)。そして、予試験を行った201号室内の玄関付近において予試験を行った後すぐに現行犯逮捕したものと考えられるから時間的接着性がみとめられる(②充足)。甲は警察に荷物の中身を聞かれたときに「ばれてたんですね。それなら聞かなくても分るでしょう」などと答えるなど、覚せい剤所持をほのめかすような発言をしており、上記犯人の明白性も認められる以上、犯罪の嫌疑は高く、覚せい剤は水溶性であり、簡単に証拠を隠滅することができるから、甲を逮捕する必要性が認められるといえる(③充足)。

(3)以上より、本件現行犯逮捕は適法である。

  • もっとも、逮捕に先立つ行為としてNらは宅配便業者の営業所長の了解を得て甲宛荷物のエックス線検査を実施している。エックス線検査については法律に規定がないところ、「強制の処分」に該当するのであれば197条但書に違反することとなる。そこで、本件エックス線検査は「強制の処分」に該当しないか。「強制の処分」の意義が明文上明らかでなく問題となる。
  • 強制処分に該当する場合、197 条 1 項但書により、刑訴法に特別の定を必要とする。また、強制処分に該当する捜査手法を用いる場合には事前の令状審査が必要となる。このように立法による統制と司法による統制を受けるほどの処分であるため、強制処分とは、個人の意思に反し、重要な権利利益に実質的に制約を加える処分を意味すると解すべきである。
  • 本件で用いられたエックス線検査は、空港で使用されている手荷物検査用の機会を使用し、中身を開披することなく外部からエックス戦を照射することにより、内容物の影を画面に映し出し、その映像からわかる範囲で内容物を推定するというものであり、3回検査を行って、1回目では内容物が判然としなかったものの2回目3回目では内容物が袋に入った結晶状のものであることが判明したという。よって、かかる検査は荷物を開披した場合と同様に中身を特定することができるものといえ、荷物の所有者の意思を制圧し、その所有者のプライバシー等を大きく侵害するものといえ、強制処分に当たると考える。
  • 以上より、本件エックス線検査は無令状で実施されたものとして違法である。また、それに密接に関連する手段として実施された現行犯逮捕手続きについても違法となる可能性が高い。

3.甲に対する覚せい剤所持の被疑事実によって、W方の捜索を行っているが、これは220条に規定する無令状差し押さえとして適法か。以下検討する。

(1) 本件では、無令状で捜索差押をしており、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に違反するのが原則である。令状主義の趣旨は、捜索差押という人のプライバシー領域への強制的侵入による重要な権利利益の侵害制約についてこれを捜査機関限りの裁量に委ねず、中立公平な第三者である裁判官の事前の司法審査を解することで、個別具体的事案について捜査目的と基本権との合理的調整を図る点にある。

これに対し、逮捕に伴う捜索差押が無令状で行える(220条1項)趣旨は、本来令状主義の下、「理由」として被疑事実と関連する検証すべきものの関連性を令状裁判官が審査すべきところ、逮捕の現場には一般的に被疑事実に関連する検証すべきものの蓋然性が高く令状審査が不要である点にある。

(2)ア.本件では、甲を現行犯逮捕(213条)した直後を行っており「逮捕する場合」に当たる。

イ.「必要があるとき」とは、罪証隠滅の恐れが認められることをいう。本件は、覚せい剤というのは水溶性で隠滅が容易にできること及び上記エックス線検査より甲が覚せい剤をまだ持っている可能性が高いことより、「必要があるとき」といえる。

(3)本件で逮捕現場は、W方であるところ、犯人であるVとは無関係の者の家を捜索している。そこで、「逮捕の現場」(220条1項2号)といえるのかが問題となる。

ア.220条1項の趣旨は上記である。そうだとすれば、証拠の現存する蓋然性が高い、逮捕に着手した場所、追跡中の場所及び逮捕した場所で、かつ、通常の捜索差押えが1つの令状について捜索場所と同一の管理権の及ぶ範囲に限られていることから、同様に、これらの場所と直接接する範囲の空間で同一の管理権の及ぶ範囲が「逮捕の現場」に当たるものと考える。ただし、「逮捕の現場」が被逮捕者以外の管理権に服する場所である場合には、222条1項、102条2項より、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」許容されるものと考える。

イ.本件逮捕はW方で行われている以上、W方全体が「逮捕の現場」となる。ただし、W方は被逮捕者甲以外の者であるWの管理権が及ぶ場所である。本件では甲が路上で荷物を受領しているにもかかわらず、W方を捜索する意図の下、わざわざ甲をW方に移動させて現行犯逮捕し、そのうえでW方を捜索したという経緯がある。確かに、甲とWの人的関係に照らせば、W方において覚せい剤又は関連証拠が存在する蓋然性があるし、路上において予試験を行うことは甲の権利保護や交通への支障の見地から相当とはいえないとも思われる。もっとも、予試験を行うために甲を移動させるにしても警察車両内や最寄りの警察署などW方以外にも適当な場所があったはずであり、W方を捜索したいという意図のもとに甲をあえてW方に移動させたという点を考慮すると、本件ではW方についての捜索差押許可状の発付を受けていない以上、本件W方の捜索差押は令状主義に反して違法であるといえる。

(4)以上より、本件捜索差押は違法である。

  • 設問2について

1.上記の違法な先行手続きの後に得られた本件尿鑑定書は、証拠禁止に当たり証拠能力が否定されないか。

(1)確かに、証拠の収集手続に違法があったとしても、証拠物自体の性質や形状に変化はなく、当該証拠の証拠価値も類型的に低下しないため、このような場合でも証拠能力を認めるべきであるようにも思える。しかし、違法な手続によって得られた証拠をいかなる場合にも証拠能力が認められるとすると、司法の廉潔性、適正手続の保障(憲法31参照)、将来の違法捜査抑止の観点から妥当でないといえるので、一定の場合には証拠能力を否定すべきである。そこで、当該証拠収集手続につき、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には、当該証拠の証拠能力は否定されるものと考える。

(2)本件において、後行の採尿手続それ自体は適法である。また、本件無令状検証及び現行犯逮捕の一連の手続と採尿手続は甲に対する覚せい剤事犯の捜査という点で同一目的・直接利用の関係にある。

先行手続の違法性が後行手続に承継されると考えると、先行手続である無令状検証及び現行犯逮捕の一連の手続の法規逸脱の程度について検討する必要があるところ、前述のように本件無令状検証及び現行犯逮捕の一連の手続きは違法であるといえる。

確かに、本件手続の際に警察官から有形力行使されたという事情はない。加えて、路上で声をかけるなど、被告人の承諾を求める行為に出ている。後行の採尿手続自体に強制もなく、被告人の自由な意思に基づき行われている。もっとも、本件無令状検証は甲をあえてW方まで移動させた点に令状主義潜脱意図は認められ、法規逸脱の程度が大きいといえる。よって違法の重大性は認められる(①充足)。

確かに、覚せい剤使用は証明することが難しく、採尿以外の方法によることが難しく、尿鑑定書は証拠として重要であるといえる。もっとも、甲が逮捕された後勾留中に尿の任意提出を求められたという点で無令状検証及び現行犯逮捕の一連の手続と尿鑑定書との間の因果性は強いといえる。また、本件無令状検証において甲をあえてW方まで移動させた捜査のような令状主義潜脱意図をもつ違法な捜査が一度認められれば、将来的にも違法捜査を繰り返す可能性が認められる。したがって、排除相当性も認められない(②充足)。

(3)以上より、本件尿鑑定書の証拠能力は認められない。

2.証拠能力が認められない尿鑑定書を疎明資料として、捜索差押許可状が発布され、これによって、覚せい剤3袋が発見された。このような派生証拠についても、尿鑑定書と因果関係を有する証拠として、証拠能力が認められないのではないか。

(1)そもそも、違法収集証拠排除法則の根拠は、司法の廉潔性、適正手続の保障(憲法31参照)、将来の違法捜査抑止という点にあるが、違法に収集された証拠を排除するだけで、その証拠によって得られた派生証拠を排除しないとすると、このような根拠を貫徹することができず、違法収集証拠排除法則の実効性を欠くことになるといえる。そこで、第1次的証拠の違法の程度、収集された第2次的証拠の重要性・事件の重大性、第1次的証拠と第2次的証拠の関連性の程度、捜査機関の意図等を考慮し、排除することが相当と認められる場合には、派生証拠の証拠能力は認められないものと考える。

(2)本件差押えは、無令状検証に引き続いており、あえて甲をW方に移動させたという点で、違法が重大であるといえる。また、検挙の難しい覚せい剤所持事件において、甲の自宅において差し押さえられた覚せい剤3袋の存在は証拠として重要である。証拠能力が認められない尿鑑定書を疎明資料として、捜索差押許可状が発布され、これによって、覚醒剤が発見されたというのであるから、本件尿の鑑定書がなければ捜索差押令状の発付が認められなかったといえ、本件尿の鑑定書と本件甲方から発見された覚せい剤3袋との間には密接な因果関係が認められる。したがって、本件尿の鑑定書と本件覚せい剤3袋間には強い関連性が認められる。

(3)以上より、本件覚せい剤3袋に証拠能力は認められない。