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エクササイズ刑事訴訟法第13問遺棄事件

  • 設問1について

1.弁護人は、甲は死体遺棄罪の単独犯で起訴されているところ、共犯者である乙が関与していることが明らかとなっていると主張する。そこで、本件は本来ならば共犯関係が成立するにもかかわらず、検察官があえて、実行行為を行ったものを単独犯として起訴した不適法・無効な起訴として公訴棄却(刑事訴訟法(以下略)338条4項)すべきか。一罪の一部起訴の可否が問題となる。

(1)当事者主義的訴訟構造(256条5項、298条1項、312条1項)の下、訴因制度のもと、訴訟物の設定は一方当事者たる検察官に委ねられており(247条)、検察官は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる(起訴便宜主義、248条)。よって、検察官は訴追裁量を有する。

また、検察官は起訴便宜主義に基づき審判対象の設定・変更権限(256条、312条)が与えられており、それが合理的裁量の範囲内である限り一罪の一部起訴は違法の問題は生じない。

(2)実行行為者がその人一人によって犯罪構成要件のすべてが満たされているならば、他に共謀共同正犯者がいても、訴因通りに認定できる。本件でも、V発見現場近くで甲が一人で運転する車の目撃情報があるから甲が死体遺棄の実行行為全体への関与をしたことは認められる。それに対して、甲は乙に関してあいまいな供述をしているという状況を考慮すると、甲を死体遺棄罪の単独犯で起訴することは合理的裁量の範囲内にあったものといえる。

(3)以上より、弁護士による公訴棄却の主張は認められない。

  • 設問2について

1.「保護責任者遺棄又は死体遺棄」と事実を認定しているが、このような概括的な認定をおこなうことは、そもそも、「犯罪の証明があったとき」(333条1項)といえるのか。

(1)そもそも、罪刑法定主義憲法31参照)とは、被告人の行為を犯罪として処罰するには、行為の時点において、その可罰性が法律上定められていなければならないとすることに尽きるものではなく、有罪判決が許されるために証明されるべき対象が、実体法上の構成要件を基準に個別化されることをも要請するものと考えるべきである。そして、刑罰権はいずれかの構成要件ではなく、個別特定の構成要件を充足することによって生じるのであるため、異なる構成要件の犯罪を択一的に認定する場合、それ自体としては犯罪が証明されておらず、個別特定の構成要件ではなく、合成的構成要件によって処罰することになってしまう。そうだとすれば、このような構成要件を異にする訴因事実の択一的認定は、罪刑法定主義の証明対象の構成要件的個別化の要請に反するため、被包摂事実の範囲で認定するにすぎない予備的認定といえる場合を除き、許されないものと考える。

では、利益原則についてはどうか。そもそも、審判対象を訴因とする現行法の下、「被告事件」とは訴因を意味するので、訴因の特定にとって必要不可欠な事実について合理的な疑いを容れない証明がなされていれば、有罪判決は許される。そして、たとえ構成要件内だとしても、訴因にとって必要不可欠な事実が択一的にしか認定されていないとしたら、疑わしいときに被告人の不利益に認定することになってしまい、利益原則に反するといえる。そこで、択一的認定が、訴因特定にとって必要不可欠な事実につきなされている場合には、利益原則に反し、許されないものと考える。

(2)保護責任者遺棄罪と死体遺棄罪は、構成要件が異なる上、包摂関係にもないので、罪刑法定主義に反するといえる。また、人の生命・身体を保護する保護責任者遺棄罪の違法性を基礎付ける被害者の生きていたことと宗教的感情あるいは死者に対する敬意感情を保護する死体遺棄罪の違法性を基礎付ける被害者の死んでいたこととでは、立証の対象が異なるため、保護責任者遺棄罪にあたらないとしても、別個に死んでいたことの証明が必要である。よって、包摂関係にないため、利益原則にも反する。

(3)したがって、上記概括的な記載は許されない。

2.もっとも、殺人罪死体遺棄罪どちらかを行ったかが明らかになっているわけではない。では、裁判所は、この場合犯罪の軽い罪である死体遺棄罪について、裁判所は有罪判決することは、利益原則に反することになるのでないか。

(1)確かにこの点、国民の処罰感情等に配慮して、少なくとも死体遺棄罪については成立することが明らかなのであるから、利益原則を重い罪について適用して小さい罪を認めることも考えられる。しかしながら、そもそもそのような認定は、矛盾のない事実認定とはいいがたい上、そもそもなぜ利益原則をまずもって重い罪に適用すべきなのかに合理的理由がない以上認められない。そこで、小さい罪である死体遺棄罪についても認定することは許されない。

(2)以上より、裁判所は死体遺棄罪の罰条で処断することができない。

  • 設問3について
  • 単独犯で起訴されているが、裁判所は共犯者の存在及び共謀があったことも心証に抱いている。この場合、判決段階で、訴因変更手続きを経ずに、「乙と共謀の下」と認定することができるのか。

(1)当事者主義を採用する現行法の下では裁判所の審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であるところ、その機能は、裁判所に対し審判対象を画定し、その限りにおいて被告人に防御範囲を明示する点にある。

したがって、審判対象の確定に必要不可欠な事実、すなわち①被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実、及び②ほかの犯罪事実と区別するに足る事実、に変更がある場合には訴因変更手続きが必要になると考える。

また、③訴因事実と異なる認定事実が一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるときは、争点明確化による不意打ち防止の要請に基づく措置が取られるべきであり、④検察官が訴因においてこれを明示した場合、原則として、訴因変更手続きを要すると考える。

 もっとも、⑤被告人の防御の具体的な状況等の心理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、⑥判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとは言えない場合には、例外的に訴因変更手続きを経ることなく訴因と異なる事実を認定できると考える。

(2)本件において、単独正犯から、共同正犯への変動が生じている。この場合確かに「共謀」が客観的成立要件として必要である。しかしながら、単独犯としてすでにすべての構成要件について充足している場合については、なお単独犯として処罰し得るのであり、共謀という要件は少なくとも単独犯として成立要件を満たしている場合は、共謀は、処罰拡張規定にすぎない。よって、背後者の存在は、審判対象確定の見地から必要な事実でない。そして単独犯か共同正犯かは、被告人にとって重要な事実であるといえる(③充足)しかし、共犯事件と主張を行っていて不意打ちとはいえない。また共犯者がいたとしても、甲は共犯者乙から指示を受けて実行に及んだと認定されている以上、より不利益にならない。

(3)以上より、訴因変更は不要であるといえる。

2.次に、「単独又は乙と共謀の下」との認定は許されるのか。

(1)本件においても同様に訴因変更の要否が問題となるところ、本件では前述の場合と違って、単独犯の場合は、間違いなく成立するのであるから、審判対象からは不要である。また、単独犯か共同正犯かは、本来の構成要件か修正された構成要件かの違いにすぎず、同一構成要件内の変動であるといえる。しがたって、訴因変更は不要である。

(2)では、そもそも「単独又は共謀の上」という択一的認定が許されるか。

ア.この点、上記罪刑法定主義及び利益原則という2つの観点からみると、本件において単独犯と共同正犯には基本形式か修正形式かの違いはあるが、同一の構成要件内の択一的認定なので、罪刑法定主義には反しない。また、共謀の事実が立証されていなくても、少なくとも被告人が実行したという事実は証明されており、単独犯の立証に欠くところはない。よって、利益原則にも反しない。

イ.以上より、「単独又は乙と共謀の下」との認定は許される。