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エクササイズ刑事訴訟法第6問殺人未遂事件

  • 設問1について
  • 採血の手続きについて検討する。

(1)本件において、甲は意識を失っており、同意の上で採血を行うことができない。本人の同意が得られない場合、医師の判断として採血する手続きが考えられる。もっとも、同意なく採血を行うことについては法律に規定がないところ、「強制の処分」に該当するのであれば刑事訴訟法(以下略)197条但書に違反することとなる。そこで、「強制の処分」に該当しないか検討する。ここで、「強制の処分」の意義が明文上明らかでなく問題となる。

ア. 「強制の処分」に当たる場合、刑訴法に特別の定を必要とするという意味で立法による統制を受ける。また、「強制の処分」に該当する手段を実際に用いる場合には、原則として事前の令状審査を必要とするという意味で、司法による統制を受ける。そうだとすれば、「強制の処分」とは、個人の意思に反し、重要な権利を実質的に制約する処分をいうと考える。

イ.本件において、治療目的の採血であれば、甲本人の意思に反しないと考える余地もあるが、本件のように血中アルコール濃度の検査の目的であるならば、本人の意思に反するといわざるを得ない。また、一般的に血液の採取は身体の損傷を伴うものであり、また、血液から様々な情報を入手することができることから、被疑者のプライバシーをも侵害する。よって、同意なく採血を行うことは「強制の処分」にあたる。

 ただし、体外に流出、貯留している血液をガーゼ等で採取するなど、身体損傷や苦痛を伴わない方法で行われる場合には「強制の処分」にはあたらない。

ウ.したがって以下、①治療目的のため採取された血液の残部がある場合②治療目的で用いた血液の付着したガーゼ等がある場合③①②以外の場合に場合分けをして考える。

2.本件につき①治療目的で採取した甲の血液について、検査等治療行為に用いられた後、残量が生じた場合は、これを領置(221条)することができるか。

(1)領置は任意提出物や遺留物に対して占有を取得・保持する処分であるが、これを行う上で令状を必要としないのは、占有取得の過程で強制の要素が認められないからである。そうだとすれば、医師がかかる血液を任意提出すれば「保管者が任意に提出した物」といえそうである。よって、強制の要素が認められないことから、領置は適法となるようにも思われる。

(2)もっとも、前述のように血液というのは様々な情報を含むものであるところ、かかる血液は「医師」が「その業務上取り扱ったことについて知りえた人の秘密」にあたり、これを提出することにつき秘密漏示罪(刑法134条1項)が成立しないか。

ア.この点、血液から薬物成分等が検出された場合に警察に通報することや、薬物成分等を検出するため警察に任意提出することは正当行為(刑法35条)にあたり処罰されないと考える。

イ.本件血液は、飲酒運転をした疑いのある甲のものであり、かかる甲の血液中のアルコール濃度を検出するために警察に本件血液を任意提出することは正当行為にあたるといえる。よって、上記行為に秘密漏示罪は成立しない。

エ.以上より、医師が任意提出をした場合本件領置は適法である。

(3)もっとも、上記血液が業務上秘密(105条)にあたり、「医師」は「押収を拒むこと」ができないか問題となるも、前述のように本件甲の血液を提出することは正当行為(刑法35条)といえるから押収を拒絶することはできないといえる。

(4)以上より、①の場合本件血液を押収することができる。

3.②甲の出血部を抑えるのに使用したガーゼ等がある場合、これを領置(221条)することは適法か。

(1)領置とは上記をいうところ、医師の任意提出を受ければ領置は適法となる。

(2)前述のように本件甲の血液を警察に提出することは正当行為(刑法35条)にあたるから、秘密漏示罪(刑法134条1項)及び業務上秘密と押収(105条)は問題とならない。

(3)以上より、②の場合本件血液の付着したガーゼ等を押収することができる。

4.③①②以外の場合は「強制の処分」にあたるため、令状が必要となる。ここで、いかなる令状によって行うべきか問題となる。まず、身体検査令状による強制採血の手続きが考えられる。

(1)強制採血は検証としての身体検査(218条1項後段)として行えると考えると、令状によって行うことができるといえる。

(2)もっとも、これに対しては、身体に損傷を加える血液採取行為は身体検査の限界を超えるとか、医師等の手によるべきであるにもかかわらず捜査機関が主体となる身体検査として行うのでは責任の所在が不明確になる、といった批判がある。

5.それでは、鑑定処分許可状によって行うことはできないか。

(1)この点、鑑定のための身体検査であれば身体内億に及ぶことも許されるし、鑑定受託者である医師等が主体となることも明確になるため適切であるようにも思われる。

(2)もっとも、かかる考え方によると、225条4項が172条を準用していないことから、規定上、間接強制はできるが直接強制はできない。

6.そこで、捜索差押許可状によって行うことができないか。

(1)体内の血液の強制的採取は捜索差押令状によるべきであるとも考えられそうである。

(2)これに対しては、尿のように排出を待つのみの老廃物とは異なり、血液は生命を維持するうえで不可欠な身体の一部であるのだから差押えにはなじまないとの批判がある。

7.それでは、鑑定処分許可状と身体検査令状の双方を併用すべきと考えることはできないか。

(1)このように考えると、鑑定処分許可状による場合の欠点と身体検査令状による場合の欠点を補うことができるため適切であるように思われる。

(2)これに対しては、たとえ併用したとしても直接強制できるのは身体検査令状で行える検査行為にとどまるのではないかという批判がある。

(3)もっとも、こうした批判に対しては、身体検査と鑑定は、一方が他方を排斥する物でなく、相互に代替補完する関係にあること、強制採血は両社の性格を併有していること等から、両令状を併用するのはむしろ法にかなっていると反論しうる。

(4)以上より、③の場合には身体検査令状と鑑定処分許可状を併用して強制採血を行うことができると考える。

(1)そもそも、起訴前の身柄拘束期間は被疑者の逃亡及び罪証隠滅を阻止した状態で、身柄拘束の理由とされた被疑事実につき起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うための期間である。よって、別件を被疑事実とする逮捕・勾留の期間が主として別件より重大な本件の捜査のために利用されるに至った場合には、当該身柄拘束は別件(令状に示された被疑事実)のための身柄拘束としての実体を喪失し、本件(主として身柄拘束が利用された方の被疑事実)のための身柄拘束となっていたと評価すべきである(実体喪失説)。この場合、本件について逮捕・勾留の要件が充足されていない以上、当該逮捕・勾留は違法であるというべきである。

 そして、別件のための身柄拘束としての実体が喪失したか否かの判断に当たっては、別件捜査の完了時期、取り調べ状況、別件と本件の関連性、供述の自発性、令状請求時の捜査機関の意図等を考慮すべきである。

(2)通常逮捕の要件は、①逮捕の相当理由(199条1項)②逮捕の必要性(199条2項但書、規則143条の3)である。本件において、甲はI市内で交通事故を起こし、歩行者に軽傷を負わせているところ、甲の血液から基準値を超える濃度のアルコールが検出されたのだから、過失運転致傷により逮捕する相当な理由が認められる(①充足)。また、本件被疑事実は、酒気帯び運転という重大な事故であり、逮捕状により逮捕する必要があったといえる(②充足)。

勾留の要件は、①60条各号のいずれかに当たること②勾留の必要性(207条1項、87条1項)である。本件において、甲が定まった住居を有するかどうかについては不明である。また、甲が罪障を隠滅すると疑うに足りる相当な理由も見当たらない。もっとも、本件被疑事実は重大であって、類型的に逃亡の恐れが高いといえる(60条3号、①充足)。自動車運転致死傷処罰法違反について裁判官から令状発布がなされ、起訴価値もあったし、実際に起訴されているから、交流の必要性もあったといえる(②充足)。

確かに、令状請求時の捜査機関の意図としては、実際に勾留期間の最後の2日間は殺人未遂事実についての取調が行っていることからも、殺人未遂について取り調べる目的もあったと思われる。

 もっとも、本件において、捜査の完了時期は勾留が開始された平成28年9月13日から10日間勾留された同月22日であり、その態様としては、勾留8日目まではもっぱら自動車運転致傷処罰法違反についての取調が行われている。

ここで、殺人未遂事実の取調が余罪取調として適法か問題となるも、かかる取調が行われたのは、勾留期間10日間のうち最後の2日間においてのみであって、取調受忍義務がないことも告げた上で約3時間ずつ殺人未遂の取調が行われている以上、適法であるといえる。

加えて、甲は、殺人未遂については取調受忍義務がないことを告げられた後に殺人未遂事件発生の現場近くに行ったことは認める供述をしており、かかる供述に自発性が認められる。また、別件と本件との関連性は基本的には認められないが、犯人が飲酒下の状態で起こした事件という点での共通性は認められるといえる。よって、逮捕に影響するような違法性もないといえる。

(3)以上より、別件のための身柄拘束としての実体が喪失したとはいえず、本件逮捕・勾留は適法である。

第3.設問3については                                                                      

1.検察官Pは甲の犯人性を立証するため、前科調書、前科にかかる判決謄本、最終前科時の供述調書の謄本といった同種前科に関する文書について証拠調請求をしているが、裁判所はこれを証拠として取り調べることができるか。犯人性という「事実」を認定するためには証拠能力のある「証拠」によらなければならないため(317条)、当該文書に証拠能力が認められるかが問題となる。

この点、異種前科があるといったことは、最低限度の証明力すらないといえるので、自然的関連性が認められないといえるが、甲が飲酒の上粗暴になる傾向を有し、飲酒下で暴行等を行った同種前科があるといったことについては、それがないものに比べて本件殺人未遂事件を行った蓋然性が高まるので、自然的関連性は認められる。では、法律的関連性も認められるか。

(1)同種前科や追起訴事実などの類似事実に関する証拠を犯人性の立証に用いることは、被告人の合う性格を推認させることで、その悪性格から被告人が公訴事実を行ったことを推認させるものである。しかし、このような推認は確実性が高くない上に、裁判官に不当な偏見を抱かせるものであり、誤判のおそれがある。そのため、原則として類似事実に関する証拠は法律的関連性が否定され、証拠能力は認められない。

(2)もっとも、同種前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつそれが公訴事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認できる場合は、例外的に類似事実を証拠として用いることが許容されると解する。なぜなら、この場合、顕著な特徴を有する犯罪が第三者によって行われる可能性は低いという経験則に基づき、顕著な特徴を有する類似の犯行態様であることから、それが同一人物による犯行であることを推認しているのであり、悪性格を介在させる立証にならないためである。

(3)本件において、甲の最終の前科は飲酒した状態で通行人に刃物で切り付け傷害を負わせたという事案であり、確かに本件殺人未遂事件と犯行の手段や方法は類似している。もっとも、飲酒をすると粗暴になる傾向というのは顕著な特徴とまではいえないものであるところ、飲酒をして粗暴になった結果、刃物を持って暴れるといったことも、一般的とはいえないまでも、とりたてて顕著な特徴とまでは言えないと考えられる。よって、それ自体で犯人性を合理的に推認できないといえる。

(4)以上より、本件文書に証拠能力は認められないといえる。