lawlawlawko’s blog

答案をアップしていきます #司法試験

エクササイズ刑事訴訟法第5問恐喝事件

  • 設問1について
  • まず、恐喝未遂を被疑事実とする本件捜索差押許可状記載の差し押さえるべき物は「別紙請求書記載のとおり」つまり「預金通帳、金員出納帳、犯行計画を記載したノート・メモ・アドレス帳・手帳・電子データ、暴力団を標章する名刺・バッチ、その他本件に関連する物」であるが、かかる概括的な記載は差し押さえるべきものの特定を要求する憲法35条、刑事訴訟法(以下略)219条1項に反しないか問題となる。
    • この点、捜索・差押えは捜査の初期の段階で行われることが多く、実際上特定が困難な場合があるから、憲法35条及び刑訴法219条1項の捜査権の濫用を防ぐという趣旨を没却しない限り許容されると考える。本件のように具体的な例示を含む概括的な記載は認められると考える。
    • 以上より、本件捜索差押許可状の差し押さえるべき物の記載は適法である。
  • 次に、上記捜索差押許可状により実際に差し押さえられた物は、預金通帳、暴力団員の名刺、野球賭博に関するものと思われる記載のあるノート3冊であった。
    • この点、預金通帳は差し押さえるべき物に含まれており、金銭の出し入れが記載されている預金通帳は甲の金銭取得状況を示すものであり、本件被疑事実に関連する証拠であるといえる。暴力団員の名刺も本件差し押さえるべき物に含まれており、本件被疑事実は恐喝未遂事実であり、脅迫文言の中には暴力団との関係を示すものも含まれていることから、被疑者が暴力団に関連するかどうかを示すものについては、本件被疑事実との関連性があるといえる。

もっとも、野球賭博に関するものと思われる記載のあるノート3冊は「本件に関連する物」といえるか。かかる差押えの実質は、検挙が困難であった野球賭博の証拠物を得るために行われたようにも見えるから、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に反しないか問題となる。

  • そもそも、令状主義の趣旨は、「正当な理由」の判断について捜査機関に全面的意委ねるのではなく、捜査機関から中立的な立場にある裁判官による事前の審査を受けるものとすることで、捜索・差押えの範囲を裁判官が許可した範囲に限定し、令状の執行を受ける者に受忍すべき処分の内容を明確に示し、もって、捜査権の濫用の防止と処分を受ける者の利益保護を実現するところにある。

そうだとすれば、裁判官は被疑事実とされた別件についてしか審査していないため、本件に関する証拠収集のために別件を被疑事実として行う捜索差押え、いわゆる別件捜索・差押えは違法である。そこで、捜索差押手続きを全体としてみて、別件ではなく本件のための捜索差押えと認められる場合には、違法になるものと考える。具体的な判断要素として①別件被疑事実に関する強制処分である捜索を実施する必要性の有無、②押収した物件と別件被疑事実との関連性と証拠価値、③押収過程それ自体の相当性、④捜査機関の目的等を総合考慮し決すべきである。

  • この点、野球賭博はそれ自体重大な犯罪で起訴価値も十分に認められるものであり、捜査の必要性があるといえる。野球賭博に関するものと思われる記載のあるノート3冊については、本件恐喝未遂の被疑事実との関連性は認められないといえそうである。もっとも、本件ノート記載の事実は、暴力団の構成や組織性を物語るものであり、特に本件事件は甲が「ヤクザの兄貴に言うぞ」等述べていることなどから暴力団が関係している可能性が高いのであるから、本件ノートは本件事件と背景事情と関わる情況証拠といえる。
  • 以上より、預金通帳、暴力団員の名刺、野球賭博に関するものと思われる記載のあるノート3冊の差し押さえは適法である。
  • 設問2について
  • 本件において、公訴事実たる10回にわたる脅迫既遂事実のうちの1回につき、一覧表の6番目に記載されている平成28年6月30日にVが甲に対しL公園で3万円を渡したとされている事実は、実際には同年7月1日午後5時頃にVが甲に対し消費者金融Bの前で3万円を渡したというのが正しい記憶であるとVが供述しており、後者が正しいことが検察官の調査により裏付けられている。かかる場合に6月30日の恐喝の7月1日の恐喝への訴因変更を許可すべきか。

訴因変更は「公訴事実の同一性」(312条1項)の範囲内で認められるところ、本件の6月30日の恐喝と7月1日の恐喝はかかる範囲内といえるのか、「公訴事実の同一性」の判断基準が明文無く問題となる。

(1)321条1項の趣旨は、二重起訴禁止(338条3号、339条1項5号)や一事不再理効(337条1号)と一体となって、これらの範囲内にある犯罪事実を検察官に一回の手続きで訴追することを要求する趣旨である。

 そして、刑事訴訟法の目的が刑罰権の実現(1条)にある以上、刑罰権が1個しか発生しない事実については、訴訟法上も一回の手続きで処理し、二重処罰が生じるのを回避すべきである。

 したがって、実体法上刑罰権が1個しか発生しない範囲、すなわち、①両訴因の基本的事実が社会通念上同一である場合、または、②両訴因が実体法上一罪の関係にある場合には「公訴事実の同一性の範囲」内にあると考える。

(2)本件では、10回の恐喝既遂事件は、併合罪関係ではなく、包括一罪関係にあると考えられる。このように考えると6月30日の恐喝と7月1日の恐喝は実体法上一罪の関係にあるため「公訴事実の同一性の範囲」内にあるといえる。

(3)以上より本件訴因変更を許可すべきであるといえる。