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答案をアップしていきます #司法試験

エクササイズ刑事訴訟法第7問詐欺事件①

  • 設問1について
  • Nらの甲方のあるアパートの大家から借りた合鍵を用いて甲方に立入った行為は「必要な処分」(刑事訴訟法(以下略)222条1項、111条1項)にあたり適法か。「必要な処分」の判断基準が問題となる。
  • 本条の趣旨は、捜査に付随して目的を達成するために必要最小限度の強制力を行使することを許容する点にあるため、「必要な処分」とは捜索差押に①必要であり、かつ②相当な行為をいう。
  • 本件において、被疑事実たる詐欺事件にはデジタルカメラ等の電子機器が用いられていたが、かかる電子機器類はデータを用意に消去することができ、容易に証拠を隠滅することができる。したがって、甲に予期されないうちに捜索・差押えを開始するため、合鍵をアパートの大家から借りてでも甲方を会場させる行為は必要であったといえる(①充足)。また、Nらは甲方への立入りの際に暴行や脅迫行為を行っていない。加えてNらは「甲さん」と呼びかけることまでしているのであるから、本件行為は相当であったといえる(②充足)。
  • 以上より、上記行為は「必要な処分」にあたり適法である。

2.Nらの甲方に立入った後で令状を呈示した行為は220条1項、110条に反し違法とならないか。捜索差押の執行前に事前に令状を呈示する必要があるか問題となる。

(1)そもそも、令状呈示(220条1項、110条)の趣旨は、被処分者に対して令状の内容を了知させることによって手続きの明示と公正さを担保し、被処分者の不服申し立て手段を確保して、その利益を図る点にある。そうだとすれば、被疑者に事前に令状の内容を了知させて手続きの公正を担保するために、令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきである。もっとも、いかなる場合にも執行前に令状を呈示しなければならないとすると、商工隠蔽や被疑者の抵抗のおそれ等から、捜索の実効性(1条参照)を確保できない場合もあり、妥当でない。また、令状の呈示は憲法上の令状主義の要請ではなく、優越する利益・必要ないし正当な理由のある時には例外が認められるべきである。そこで、捜索差押の実効性を確保するために令状呈示前に執行すべき必要性があり、執行後の令状の呈示が社会通念上相当といえる範囲である場合には、例外的に、執行着手後の令状の呈示も許容されるものと考える。

(2)前述のように本件証拠物たるデジタルカメラなどの電子機器は容易に証拠隠滅されうる。かかる事態を回避するために執行後であっても呈示を認めるべき必要性があるといえる。また、Nらは甲方に立入った後すぐに甲に令状を呈示しており、相当であったといえる。

(3)以上より、上記行為は適法である。

  • Nらの本件ノートパソコンを、中身を確認しないで差し押さえた行為は適法か。中身を確認しない段階では本件ノートパソコンすべてに被疑事実との関連性が認められるわけではないため、被疑事実との関連性を確認せずに差し押さえることとなり違法とならないか問題となる。
  • 令状裁判官の意ならず捜査機関も被疑事実との関連性を判断すべきである。したがって、原則として捜査機関は被疑事実との関連性を確認したうえで差押をしなければならない。もっとも、電子データ記録媒体の場合、文書のような可視性・可読性がないうえ、大量の情報を記録でき、記録された情報の消去や加工も容易であるという性質があることから、差し押さえるべきものが文書である場合と異なり、捜索の現場で被疑事実との関連性を判断するのは容易ではない。そこで、当該電子データ記録媒体において、①被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、②その場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときには、例外的に、捜査機関が被疑事実との関連性を確認せずに差押えをすることが許容されるものと考える。
  • 本件において、本件ノートパソコンは甲方に存在していたのであるから、本件詐欺に使用した画像データや文書データが含まれている蓋然性が認められる。(①充足)また、甲は、捜索が始まると本件ノートパソコンの配線を取り外そうとしていたため、その場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があったといえる(②充足)。
  • 以上より、本件行為は適法であるといえる。

第2.設問2について

1.検察官が同種前科の内容を記載した判決謄本を証拠調請求したことは、前科による立証として許されないのではないか。

(1)この点、被告人の犯人性の証明のためではなく専ら犯罪の主観的要素を証明するためであれば、当該被告人の過去の類似行為を立証することは許されるように思われる。しかし、主観的要素であれば常に類似的事実による立証が許されるとするのは妥当ではないと考える。

確かに犯罪の客観的要素が他の証拠により認められる場合であるから、裁判官に不当な偏見を与えるおそれは低いといえる。しかし、過去に同種の犯罪を故意に行ったという事実から今回も同種の犯罪を故意に行ったと推認するのであるならば、類似事実の存在から被告人に同種の犯罪を行う性向があると推認し、さらに主観的要素を推認することにほかならない。類似事実による犯人性の立証の場合と異なることはないといえる。

(2)もっとも、本件においては、過去に同種の犯罪により有罪判決を受けていることから、甲が自己の本件行為が詐欺罪の構成要件的行為に該当することを認識していたということは推認できる。したがって、同種前科による立証が許容されると考える。