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エクササイズ刑事訴訟法第8問詐欺事件②

  • 設問1について
  • M及びPはNの接見を申し込んだNに対し、直ちに接見をすることはできない旨述べた上、接見を指定している。そもそも接見指定は認められるか。
  • 接見交通権(刑事訴訟法(以下略)39条1項)とは、身柄の拘束を受けている被疑者・被告人が、立会人なしに弁護人と面会し、書類等の授受を行うことができる権利をいう。

憲法34条前段は被疑者の弁護人選任権を保障しているところ、これは単に弁護人を選任することを妨げられないというだけではなく、被疑者に対し弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障したものである。そして刑訴法39条1項はかかる憲法34条前段の趣旨にのっとり設けられたもので、その意味で憲法34条前段に由来するものということができる。

そうであるとすれば、そのような重要な権利の制限は限定的に解すべきであり、39条3項の接見指定は、被疑者の身柄拘束期間に厳格な制限があることに鑑み、1つしかない被疑者の身体を現に必要としている場合に調整を図る趣旨と考えるべきである。

したがって、「捜査のため必要があるとき」とは、捜査の中断等により操作に顕著な支障が生じる場合をいうと考えられる。例えば、現に被疑者を取調中である場合や実況見分、検証に立ち会わせている場合、また間近いときに右取調等をする確実な予定があって、弁護人の申し出通りの接見を認めたのでは取調等が予定通り開始できなくなるおそれがある場合などは原則としてこれにあたると考える。

  • 本件において、Nが訪れたのは実際に弁解録取中又は弁解録取開始直前のことであり、原則として捜査に顕著な支障が生じるおそれがあるといえる。
  • もっとも、本件において、Nは逮捕後一度も接見しておらず、本件の接見が逮捕後の初回接見である。それにもかかわらず、接見指定したM及びPの行為は、「被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限する(39条3項但書)ものにあたり、違法とならないか。
  • そもそも、弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取り調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、弁護人依頼権を定めた憲法34前段の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。そこで、捜査機関は接見指定の要件が具備された場合でも、指定にあたっては、弁護人となろうとする者と協議して、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能であるかどうかを検討し、これが可能なときは、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、たとえ比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきと考えるべきである。
  • 本件において、Nが求めたのは初回接見であり、重要なものであったといえる。

ここで、まずMの指定内容についてみるに、弁解録取の手続き及びそれに引き続く指紋、採取手続き、身上経歴についての取調べ、そして逮捕事実の概要についての取調べについては、いずれも必要性が認められるものである。しかし、上記初回接見の重要性に鑑みると、これらの手続きの合間に短時間でも接見の時間を確保できないか、Nと協議することはできたといえる。したがって、Mの接見指定は午後4時と指定した点において違法と解される。

次に、Pの指定内容をみるに、検察官及び裁判官の弁解録取・勾留質問は法定された不可欠の手続きであるし、庁舎内に立会人なしに接見できる設備がないことは接見を拒む理由として妥当であるといえる。もっとも、弁護人において検察事務官や押送短答警察官の立会いの下短時間接見すること(いわゆる面会接見)を求める場合もありうる。かかる場合においても、上記初回接見の重要性に鑑み、Nと協議することはできたと考えられ、協議なしに午後6時と指定した点において不適切であったといえる。

  • 設問2について
  • 「自白」(319条1項)とは、事故の犯罪事実の全部または主要部分を肯定する被告人の供述を言うところ、甲はMらからの内妻に会わせる旨の約束等を受けて被疑事実を認め、さらに乙の関与と犯行メモ等の在処について自白している。

かかる自白は「その他任意にされたものでない疑いのある自白」(憲法38条2項、319条1項)とは言えないか。

(1)そもそも、自白法則(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の趣旨は、類型的に虚偽の自白が誘発されるおそれのある状況下でなされた自白について証明力の評価を誤るおそれがあるため、一律にその証拠能力を否定して、誤判防止を図った点にある。そうだとすれば、「その他任意にされたものでない疑いのある自白」に当たるか否かは、①類型的に虚偽の自白を誘発するような状況があったか、②かかる状況と自白に因果性が認められるか否かで判断する。

(2)まず、Mらは甲に対して「接見禁止中だが、内妻に会わせてやってもよいぞ」と約束している。警察官は接見禁止の権限を有していない(207条1項、81条)が、被疑者は通常法的な知識を有しておらず、このように直接的に申し向けられたら警察官も一定の権限を有すると思い込むのが自然である。被疑者にとって重要な家族等との接見をすることは重大な利益であるといえるから、虚偽であるが自白して接見を受けたいとの心理状態になることが自然である。したがって、類型的に虚偽の自白を誘発する恐れがある状況といえる(①充足)。また、甲はMらの取り調べにおいて乙の関与については否認し続けてしたのにこの約束によって、内妻に会いたいという気持ちから突如として自白に転じたのであるから、かかる状況の影響を受けて自白がなされたと推認できる(②充足)。

 次に、Mらは甲に対して「乙に任意で話を聞いたら、『甲に脅されて無理やりやった』と言っているぞ」などと乙の供述内容について虚偽を述べている。この点、真実は未だ乙の聴取は未実施であったというのであるから客観的に虚偽であるうえ、甲に対し、乙にとって不利益な内容の供述をするよう仕向けるものといえる。共犯者が自白をしたと知れば、共犯者に裏切られたと感じて、虚偽であるがかかる共犯者にとって不利益な供述をしようとの信条になることが考えられる。したがって、類型的に虚偽の自白を誘発する恐れがある状況といえる(①充足)。実際に、甲はMらの取り調べにおいて乙の関与については否認し続けてしたのに、兄貴分に当たる乙から裏切られたという思いから、突如として乙から指示されたという内容の自白に転じたのであるから、かかる状況の影響を受けて自白がなされたと推認できる(②充足)。

(3)以上より、かかる自白は「その他任意にされたものでない疑いのある自白」(憲法38条2項、319条1項)にあたり、証拠能力が認められない。

  • 設問3について
  • 本件甲方から発見された犯行メモと現金100万円は上記証拠能力が認められない自白からの派生証拠である。もっとも、派生証拠自体は虚偽のおそれはないし、上記約束自白・偽計自白は自白の動機に影響を与えているものの、供述の自由を侵害しているわけではないので、自白法則から排除することはできない。
  • そこで、違法収集証拠により排除できないか。
  • そもそも、違法収集証拠排除法則の根拠は、司法の廉潔性、適正手続の保障(憲法31参照)、将来の違法捜査抑止という点にあるが、違法に収集された証拠を排除するだけで、その証拠によって得られた派生証拠を排除しないとすると、このような根拠を貫徹することができず、違法収集証拠排除法則の実効性を欠くことになるといえる。そこで、第1次的証拠の違法の程度、収集された第2次的証拠の重要性・事件の重大性、第1次的証拠と第2次的証拠の関連性の程度、捜査機関の意図等を考慮し、排除することが相当と認められる場合には、派生証拠の証拠能力は認められないものと考える。
  • 本件自白は約束と偽計の併用という自白獲得手段として著しく不当なものによってなされており、重大な違法であるといえる。また、本件被疑事実は詐欺事件という現金を詐取された被害者の存在する重大犯罪である。加えて、本件犯行メモ及び現金100万円と上記自白との間には強い関連性が認められる。
  • 以上より、派生証拠たる犯行メモと現金100万円は証拠能力を否定される。