lawlawlawko’s blog

答案をアップしていきます #司法試験

エクササイズ刑事訴訟法第11問背任事件

  • 設問1について

1.罪名を「会社法違反」とのみしか記載していないが、適用法条まで記載する必要があるのではないか。刑法犯の場合には構成要件の一般名が記載されるため、罪名のみでいかなる被疑事実なのか明らかであるのに対し、特別法違反の場合には、刑法犯と異なり明らかでないため問題となる。

(1)そもそも、219条が「罪名」の明示を要求した趣旨は、令状が罪名によって表示されている特定の被疑事実に関する限りにおいて正当な理由に基づき発布されたものであることを示し、捜査機関がその令状を他事件に流用するのを防止する点にある。そして、適用法条が記載されていなくても、場所や物等のほかの記載とあいまって他事件への流用は防止できる。また、憲法35条は、令状が正当な理由に基づいて発付されたことを明示することまでは要求していないため、被疑事件の罪名を適用法条を示して記載することは憲法上要求されていない。そこで、適用法条の明示は不要と考える。

2.本件捜索差押令状は、捜索すべき場所を「H県I市J町〇丁目△番地株式会社L銀行本店ビル」とやや広範に記載しているが、かかる記載で捜索すべき場所が特定されたといえるか(憲法35条、刑訴法219条1項)。

(1)そもそも憲法35条、刑訴法219条1項が捜索すべき場所の特定を要求した趣旨は、令状審査に当たり「正当な理由」の存在についての令状裁判官による実質的認定を確保し、その審査を通じて、捜査機関による捜索及び差押えの権限を、「正当な理由」があることが裁判官によって事前に確認されたうえで令状に記載された範囲に限定する点にある。そうだとすれば、「捜索すべき場所、身体若しくは物」については、それについて裁判官による「正当な理由」、すなわち、その場所等に証拠物が存在する蓋然性があるかの審査を可能にし、かつ、捜査機関(及び処分を受ける者)にとって、捜索の対象となる場所等とそうでない場所等が識別可能な程度に、対象が特定されていることが必要である。

そして、 捜索対象が住居等の場所である場合には、空間的に他の場所と明確に区別するとともに、その場所の管理権ごとに区分しなければ、捜索期間は捜索のできる場所とそうでない場所を識別することができない。そこで、場所の捜索の場合には、空間的位置の明確性と管理権の単一性を満たす場合に限り、特定されているものと考える。

(2)本件において、「H県I市J町〇丁目△番地株式会社L銀行本店ビル」と番地及びビル名まで示されているのであるから、空間的位置は明確に表されている。また、本件「株式会社L銀行本店ビル」はビル全体にL銀行の管理権が及んでいるものと考えられるから、管理権の単一性を有しているといえる。

(3)したがって、かかる記載で捜索すべき場所が特定されているといえる。

3.差し押さえるべき物を「本件に関連する融資稟議書、担保明細書、取締役会議事録、帳簿、メモ等」と概括的な記載がなされているが、かかる記載で差し押さえるべき物の特定がされたといえるか(憲法35条、刑訴法219条1項)。

(1)ア.この点、憲法35条及び刑訴法219条1項の趣旨は捜査権の濫用を防ぐという点にあるため、差し押さえるべき物の記載は、捜査機関が令状の記載自体から差押対象物件にあたるかを合理的に識別できる程度のものでなければならない。一方で、捜索・差押えは捜査の初期の段階で行われることが多く、実際上特定が困難な場合がある。したがって、憲法35条及び刑訴法219条1項の捜査権の濫用を防ぐという趣旨を没却しない限り許容されると考える。よって、具体的な列挙に続いて概括的記載がなされる場合であれば、被疑事実に関係があり、かつ例示物件に準ずる物件を差押えの対象としていることが明らかである場合、差押えの対象は特定されていることになる。

イ.本件のように具体的な例示を含む概括的な記載は、被疑事実に関係があり、かつ例示物件に準ずる物件を差押えの対象としていることが明らかであるといえ、差押えの対象は特定されているといえる。

(2)以上より、本件捜索差押許可状の差し押さえるべき物の記載は適法である。

3.Nらの乙の所持していたアタッシュケースを捜索した行為は場所に対する捜索差し押さえ令状の効力として許容されるか。「捜索すべき場所」(219条1項)の範囲が問題となる。

(1)令状主義の趣旨(憲法35条、刑訴法218条1項)は、重要な権利利益を制約する捜査については、令状裁判所の事前の司法審査を介することで捜査と人権の合理的調整を図った点にある。かかる趣旨からすれば、裁判官の司法審査が及んでいるといえる範囲に限り令状の効力が及ぶものと考える。そこで「捜索すべき場所」とは、捜索場所の権利利益に包摂されているもの、すなわち捜索場所に存在する管理権者が管理支配するものにまで及ぶ。

(2)本件アタッシュケースは捜索場所たるL銀行本店ビル9階の相談役室前の廊下で乙が持っていたものである。確かに、かかるアタッシュケースは乙の所有物でありプライバシーを侵害するように思われる。もっとも、かかるアタッシュケースは直前まで捜索差押許可状記載の捜索場所たるL銀行本店ビルの9階フロアに存在していたものと思われる。また、アタッシュケースとは、通常仕事で用いる書類等を入れて持ちあるくための鞄であり、本件秘書乙は特に書類等の管理を行うことを業務の一つとするのであるから、本件乙の鞄は通常L銀行本店ビルにおいて管理ないし利用されているものということができる。よって、本件アタッシュケースはL銀行の権利利益に包摂されているものといえる。

(3)以上より、Nらの上記行為は適法である。

4.Nが乙の右手からアタッシュケースをもぎとった行為及び施錠されていたアタッシュケースをドライバーでこじ開けた行為は「必要な処分」(222条1項、111条1項)といえるか。

(1) 本条の趣旨は、捜査に付随して目的を達成するために必要最小限度の強制力を行使することを許容する点にあるため、「必要な処分」とは捜索差押に①必要であり、かつ②相当な行為をいう。

(2)本件において、捜索場所に居合わせた乙が捜索中に本件アタッシュケースを持ってその場を立ち去ろうとしており、Nの「アタッシュケースの中を見せてもらえませんか」という問いかけに対して、乙は「大事な書類で、すぐに届けないと当社に損害が出てしまいます」などと言いながらなお立ち去ろうとしており、「開けてもらえますか」という問いかけに対して黙ったままであったというのだから、捜索場所にあった捜索の対象物を隠匿したと疑うに足りる十分な理由があるといえる。また、確かにアタッシュケースを力ずくでもぎ取る行為はやや強引であったと思われるものの、Nらは乙に対して暴行等を行ったわけではなく、アタッシュケースを乙が持ち出さないようにするために相当な手段であったといえるし、施錠されていたアタッシュケースをドライバーで開ける行為は相当であるといえる。

(3)以上より、上記行為は適法である。

5.Nらが乙の使用している机の引き出しの中を捜索した行為は適法か。                                                                                                                                       

(1)上記令状主義の趣旨に鑑みて、「捜索すべき場所」とは上記をいうところ、本件乙の机の引き出しは、捜索場所たるL銀行本店ビルに付属する物であるといえるから、本件乙の机の引き出しの中身もL銀行の権利利益に包摂されているものといえる。

(2)以上より、Nらの上記行為は適法である。

6.Nらが乙の使用している机の引き出しをドライバーを用いて鍵を開けた行為は「必要な処分」(222条1項、111条1項)にあたり適法か。

(1)「必要な処分」とは上記をいうところ、乙は本件机の引き出しを開けることを拒んでおり、捜索場所にあった捜索の対象物を隠匿したと疑うに足りる十分な理由があるといえる。また、本件机の引き出しをドライバーを用いて鍵を開けた行為は相当であるといえる。

(2)以上より、上記行為は適法である。

2.次に、上記捜索差押許可状により甲の手帳、パソコン、メモ等が差し押さえられている。 (1)この点、メモ等は差し押さえるべき物に含まれており問題ない。手帳も、甲の業務状況を示す証拠であるといえるから上記メモ等に含まれると考えることができ、本件被疑事実の関連する証拠であるといえる。

(2)もっとも、本件パソコンは被疑事実との関連性の審査なしに差し押さえられているところ、かかる差押えは違法とならないか。

ア.令状裁判官の意ならず捜査機関も被疑事実との関連性を判断すべきである。したがって、原則として捜査機関は被疑事実との関連性を確認したうえで差押をしなければならない。もっとも、電子データ記録媒体の場合、文書のような可視性・可読性がないうえ、大量の情報を記録でき、記録された情報の消去や加工も容易であるという性質があることから、差し押さえるべきものが文書である場合と異なり、捜索の現場で被疑事実との関連性を判断するのは容易ではない。そこで、当該電子データ記録媒体において、①被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、②その場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときには、例外的に、捜査機関が被疑事実との関連性を確認せずに差押えをすることが許容されるものと考える。

イ.本件では、被疑者甲のパソコンには被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が高いといえる。もっとも、本件においてはその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるといえる状況は見当たらない。

ウ.したがって、本件行為は違法であるといえる。

(3)もっとも、パソコンのような電磁的記録媒体の差押えは222条1項、110条の2によることができないか。

ア.本件「差し押さえるべき物」はパソコンという「電磁的記録に係る記録媒体」であるところ、令状執行者が当該記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体への複写・印刷・移転を行い、又は、差押えを受けるものに他の記録媒体への複写・印刷・移転を行わせたうえ、「当該他の電磁的記録」を差し押さえることができる。

イ.したがって、上記行為は不適切であり、Nらは222条1項、110条の2に従った手続きをするべきであったといえる。

  • 設問2について
  • 本件【融資稟議書】、【取締役会議事録】は「公判期日における供述に代えて書面」(以下伝聞証拠とするにあたり、証拠能力が否定されないか。そこで本件供述は伝聞証拠に当たるかが問題となる。
  • そもそも、320条1項により伝聞証拠が証拠能力を否定されている趣旨は、供述証拠は人の知覚、記憶、表現、叙述という過程を経るため、その各過程で誤りが生じる恐れが高いにも関わらず、宣誓(154条、規則116条~120条)、反対尋問、偽証罪による制裁、裁判所による観察という真実性の担保に欠ける点にある。とすれば、伝聞証拠とは①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②要証事実との関係で現供述の内容の真実性が問題となるものをいうと考える。
  • 本件において、本件立証趣旨は検察官の意見を総合して具体的に考えると「本件融資に関連する書面の存在・記載内容」であるといえる。かかる場合には内容が真実でなくても公訴事実を推認できるといえるので、非供述証拠となり、非伝聞となる。
  • 以上より、本件【融資稟議書】、【取締役会議事録】は証拠能力が認められる。