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エクササイズ刑事訴訟法第14問殺人事件

  • 設問1について
  • Nらの平成29年3月11日、甲方近くに停車した捜査用車両の中から、公道上を歩いている甲の姿をビデオカメラで撮影した行為は適法か。この点、身柄拘束した被疑者に対する写真撮影については明文規定が刑事訴訟法(以下法令省略)218条3項にあるが、それ以外の捜査目的で行われるビデオカメラによる撮影行為については法律に規定がないところ、「強制の処分」に該当すれば197条但書に違反することとなる。そこで、「強制の処分」に該当しないか検討する。ここで、「強制処分」の意義が明文上明らかでなく問題となる。

(1)「強制の処分」に当たる場合、刑訴法に特別の定を必要とするという意味で立法による統制を受ける。また、「強制の処分」に該当する手段を実際に用いる場合には、原則として事前の令状審査を必要とするという意味で、司法による統制を受ける。そうだとすれば、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、重要な権利を実質的に制約する処分をいうと考える。

(2)公道を歩行中の被疑者をビデオで隠し撮りをする場合、被疑者の同意を得ておらず、もし隠し撮りをしてよいかを問えば、被疑者は反対するはずであるから、合理的に推認される意思に反するといえ、個人の意思を制圧しているといえる。

次に、重大な権利侵害を伴っているか。本件において、被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由が侵害されている。もっとも、被疑者が撮影された場所は、自宅内等のプライバシー保護の必要性が著しく高い場所ではなく、公道上である。公道上は不特定多数の者が存在しうる場所であって、他者から観察されることを受忍している空間であるといえ、プライバシー保護の必要性はそこまで強くないといえ、被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由はそこまで重大な権利とはいえない。

よって、上記ビデオ撮影は、重大な権利侵害とはいえず、強制処分には該当しない。

(3)以上より、上記ビデオ撮影は任意処分にあたる。

2.もっとも、任意処分といえども被疑者Xの被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由を侵害するおそれがある以上、「目的を達するため必要な限度で」行われなければならない(捜査比例の原則、197条1項本文)。すなわち、当該捜査を行う必要性、緊急性を考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ許容されるものと考える。

(1)本件の被疑事実は殺人事件であり、殺人罪(刑法199条)は死刑ともなりうる重大な犯罪である。

そして、本件事件の死体発見現場近くのコンビニエンスストアに防犯カメラが設置されており、本件被害者Vの死体発見の約5時間前である同月3日午前2時過ぎに黒いスポーツカーに乗った男性と共に同店で買い物をするVの姿が映っていた。そして、この画像をもとに聞き込み捜査を実施したところ、同市内に住む甲が画像の人物に似ているとの情報が寄せられた。そのため、上記防犯カメラに写っていた人物が本件事件の犯人である可能性が高いのであるから、上記防犯カメラに写っていた人物と甲の同一性を確認する必要性が高度に認められる。

また、ビデオ撮影は、甲の表情など挙動も含めて撮影することで本件本犯カメラに写っていた人物と甲が同一人物であるかを明快に確認することができ、犯人の特定を相当程度確実なまでに行うことができる。そして、隠し撮りについてもばれてしまえば逃走され撮影ができなくなるおそれがある以上、ビデオで撮影する必要が強く認められる。

 さらに、本件事件は人の命も失われている重大な犯罪であり、犯人が未検挙であることは、新たに同様の事件が起こされるおそれもあると考えられるから、B宅周辺の住民は不安に感じるはずであり、緊急性も認められるといえる。

 これに対して、確かに甲はみだりに容貌等を撮影されない自由を侵害されている。しかし、公道という他者からの観察を一定程度受忍するべきである空間におけるビデオ撮影である以上、被侵害利益としてはやはり重要なものとはいえない。

(2)以上より、上記ビデオ撮影は被侵害利益の重大性よりも捜査の必要性、緊急性が勝っているため、具体的状況の下、相当といえ本件捜査は適法である。

3.さらに、Nらの防犯カメラの画像に写っていた人物がはめていたブレスレットと甲がはめているブレスレットとの同一性を確認するため、同月13日、甲が飲食していたファミリーレストランの店長に依頼し、店内の防犯カメラと、所持していた小型ビデオカメラを用いて、店内で飲食中の甲をビデオ撮影した行為は適法か。

(1)「強制の処分」とは上記をいうところ、ファミリーレストランで飲食中の被疑者をビデオで隠し撮りをする場合、被疑者の同意を得ておらず、もし隠し撮りをしてよいかを問えば、被疑者は反対するはずであるから、合理的に推認される意思に反するといえ、個人の意思を制圧しているといえる。

次に、重大な権利侵害を伴うかにつき、本件において、被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由が侵害されているが、被疑者が撮影された場所は、自宅内等のプライバシー保護の必要性が著しく高い場所ではなく、ファミリーレストランである。確かにファミリーレストランは公道上と比べるとプライバシー保護の必要性がより高い空間であると考えられるが、不特定多数の者が存在しうる場所であって、他者から観察されることを受忍している空間であるといえ、プライバシー保護の必要性はそこまで強くないといえ、被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由はそこまで重大な権利とはいえない。

(3)以上より、上記ビデオ撮影は任意処分にあたる。

2.もっとも、上記「目的を達するため必要な限度で」行われているか。

(1)前述のように本件事件は重大犯罪である。

 本件で、上記防犯カメラの画像に写っていた人物はブレスレットをはめていた。前述のように上記防犯カメラの画像に写っていた人物が犯人である可能性が高く、上記かかる人物について寄せられた情報から甲が犯人である嫌疑が高い以上、防犯カメラの画像に写っていた人物がはめていたブレスレットと甲がはめているブレスレットとの同一性を確認する必要性は高いといえる。

 確かにビデオ撮影は、前述のように甲の表情など挙動も含めて撮影するものであり、単にブレスレットを撮影する目的であるのならば、防犯カメラのみ、もしくはカメラ撮影で十分であるようにも思われる。しかし、ブレスレットというのは手首につける装飾品であり、洋服の袖などで隠れてしまう可能性が高い。また、食事中は両手を動かすことが多いから、固定されている店内防犯カメラやカメラ撮影ではブレスレットが見えている状態を撮影することが困難であると考えられる。よって、ビデオ撮影の必要性が高度に認められる。そして、前述のように逃走のおそれを考えると隠し撮りをした点についても必要性が高いといえる。

 前述のように緊急性も認められるといえる。

 これに対して、確かに甲はみだりに容貌等を撮影されない自由を侵害されているが、ファミリーレストランという他者からの観察を一定程度受忍するべきである空間におけるビデオ撮影である以上、被侵害利益としてはやはり重要なものとはいえない。

(2)以上より、上記ビデオ撮影は被侵害利益の重大性よりも捜査の必要性、緊急性が勝っているため、具体的状況の下、相当といえ本件捜査は適法である。

  • 設問2について
  • 本件〈顔貌鑑定書〉は、高度な科学的原理・技術を用いているがゆえに、科学的証拠として証拠能力を否定され得ないか。自然的関連性が認められるか問題となる。

(1)そもそも、自然的関連性とは、証拠に要証事実を推認させるのに必要な最小限度の証明力がなければならないことをいうところ、顔貌鑑定においては①その科学的原理が理論的正確性を有し、②具体的な実施の方法も、その技術を習得した者により、科学的に信頼される方法で行われたと認められる場合に限り、最小限度の証明力を有するとして、自然的関連性が認められるものと考える。

(2)本件顔貌鑑定は、スーパーインポーズ法・形態学的検査・統計学的方法を併用するもので、科学的原理が理論的正確性を有するといえる(①充足)。また、画像処理に当たったP及び鑑定を行ったQは、それぞれの分野における専門性を備えており、用いた具体的方法についても、科学的に信頼される方法であると考えられる(②充足)。

2.では、本件鑑定書に法律的関連性は認められるか。

(1)本件鑑定書は、「甲と防犯ビデオの人物との同一性」という要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる公判期日外証拠なので、伝聞証拠にあたり、同意なき限り(326条1項)原則として証拠能力が認められない(320条1項)。

(2)もっとも、法は証拠とすべき必要性と、信用性の情況的保障が認められる場合には、伝聞証拠であっても例外的に証拠能力を認めている(伝聞例外、321条以下)。そこで本件鑑定書も伝聞例外として証拠能力が認めれられないか。

(3) 本件〈顔貌鑑定書〉は、「鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成した者」(321条4項)にあたるから、鑑定人の真正供述を要件として証拠能力が肯定される。

  • 本件【精神鑑定書】に証拠能力が認められるか。本件【精神鑑定書】が伝聞証拠に当たるか問題となる。
  • そもそも、320条1項により伝聞証拠が証拠能力を否定されている趣旨は、供述証拠は人の知覚、記憶、表現、叙述という過程を経るため、その各過程で誤りが生じるおそれが高いにもかかわらず、宣誓(154条、規則116条~120条)、反対尋問、偽証罪による観察という真実性の担保に欠ける点にある。とすれば、伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題となるものをいうと考える。
  • 本件鑑定書は、甲の公判廷外における供述を内容とする証拠である(①充足)。次に、②について、まず本件の公訴事実は殺人事件である。そして、公判廷での争点は甲の責任阻却事由の不存在及び主観的構成要件該当事実である。そして、検察官の意見を総合して具体的に考えると立証趣旨は「甲の責任能力及び殺意の存在」である。また、犯行当時、甲は事物の理非善悪を弁識する能力又はこの弁識に従って行動する能力が欠如又は著しく減退していたとはいえないということといったことから「殺意の存在」を推認することはできず、関連性はないことから、かかる立証趣旨を要証事実として採用することはできないが、かかる証拠は責任能力を立証することができる。よって、本件鑑定書は、責任能力の立証という要証事実との関係で内容の真実性が問題となり②を満たす。

 したがって、本件鑑定書は伝聞証拠にあたり、同意なき限り(326条1項)原則として証拠能力は認められない。

  • もっとも、法は証拠とすべき必要性と、信用性の情況的保障が認められる場合には、伝聞証拠であっても例外的に証拠能力を認めている(伝聞例外、321条以下)。そこで、本件【精神鑑定書】も伝聞例外として証拠能力が認められないか。本件【精神鑑定書】は「鑑定の過程及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したもの」に当たり、321条4項の要件を満たさないか。

もっとも、本件【精神鑑定書】は担当検察官Rによって鑑定を嘱託された者(223条1項)が作成した鑑定書であるが、係る場合にも321条4項が適用されるか。321条4項は裁判所又は裁判官の命じた鑑定人の作成した鑑定(165条、179条等)の経過及び結果を記載した書面を予定しているため問題となる。

ア.そもそも、321条4項の趣旨は、特別な学識経験を有する者によるその学識経験に基づく判断意見という性質から類型的な正確性が認められること、及び書証による報告の方が口頭による報告よりも正確性が高いことから、緩やかな要件で証拠能力を認めた点にある。そうだとすれば、鑑定人が作成した鑑定書ではない場合でも、特別な学識経験を有するものがその学識経験に基づいて判断意見を記載したと認められる書面については、321条4項を準用すべきものと考える。

イ.この点、鑑定受託者も裁判所の命じた鑑定人と同様、特別な学識経験を有し、その学識経験に基づき書面を作成したといえるから、準用できると考える。

ウ.したがって、鑑定受託者が作成の真正を証言すれば、鑑定書全体について証拠能力が肯定できると考える。

(4)しかし、本件【精神鑑定書】には、Sが被告人から聞き取った内容を記載した「6 問診結果」という部分が存在するところ、この部分が立証趣旨「殺意の存在」との関係で伝聞証拠にあたり、証拠能力が否定されないか。上記判断基準に従って検討する。

ア.本件甲の供述は公判廷外の供述にあたる(①充足)。また、前述のように本件立証趣旨は「甲の責任能力及び殺意の存在」である。

「6 問診結果」において、甲はSからの問いになんら問題なく答えており、そのこと自体から責任能力を有することが推認できる。よって、立証趣旨の「責任能力」との関係では非伝聞であるといえる。

「6 問診結果」において、甲の「悪口を言われ、とっさに、かっとなって、殺してやる、と思った。」との供述が記載されている。かかる証拠は真実性にかかわると考えられるから(②充足)、伝聞証拠であると考える。

  • そこで、上記と同様に考えて本件「6 問診結果」も伝聞例外として証拠能力が認められないか。本件「6 問診結果」は「被告人の供述を録取した書面」にあたるため、322条1項の要件を満たすか検討する。
  • この点、「6 問診結果」部分には被告人の署名押印が欠けることから、証拠能力は否定される。