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エクササイズ刑事訴訟法第15問傷害事件①

  • 設問1について

1.逮捕に伴う捜索差押の前提として本件甲の現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下略)213条)は適法か。

(1)逮捕を行うためには原則として令状が必要となる(憲法33条、刑訴法199条)。その趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対して、現行犯逮捕の場合には、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから誤認逮捕のおそれが低く、他方で犯人逮捕の必要性も高いことから、令状主義の例外として無令状で行うことが許される。

したがって、現行犯人に当たるとして現行犯逮捕が適法とされるためには、①犯罪と犯人の明白性、②犯罪と逮捕行為との時間的接着性、③逮捕の必要性が必要となる。犯罪と犯人の明白性を判断するに当たっては、逮捕現場の客観的事情、現場における被害者の挙動、その他逮捕者自らが直接覚知した客観的事情を資料とするが、被害者・目撃者の通報・供述、被逮捕者の供述も、客観的資料を補充するものとして認定資料とすることができる。また、現行犯逮捕について逮捕の必要性に関する明文規定はないが、現行犯逮捕も逮捕の一類型であることに鑑みて、逮捕の必要性が要件になると解する。

(2)本件において、甲がVに皿を投げつけるなどした旨の通報があったことや甲が血のついたハンカチを持っていたこと、Vが「甲からやられた」と話していること、他の参加者が甲の暴行を間違いないと言っていること及び甲自身もVに対して暴行を加えたことを認めていることから、犯人の明白性が認められているといえる(①充足)。そして、本件犯行現場たる甲方の庭において、Nらが事情を聴いた後すぐに現行犯逮捕したものと考えられるから時間的接着性が認められる(②充足)。前述のように甲の犯人性は明白であり、犯罪の嫌疑は高く、犯行現場が甲宅の庭である以上、証拠隠滅を行うことは容易であると考えられるから、甲を逮捕する必要性が高度に認められる(③充足)。

 (3)以上より、本件現行犯逮捕は適法である。

3.甲に対する傷害罪の被疑事実によって、甲方の庭における庭に散乱していた食器類の捜索差押を行っているが、これは220条に規定する無令状差し押さえとして適法か。以下検討する。

(1) 本件では、無令状で捜索差押をしており、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に違反するのが原則である。令状主義の趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対し、逮捕に伴う捜索差押が無令状で行える(220条1項)趣旨は、本来令状主義の下、「理由」として被疑事実と関連する検証すべきものの関連性を令状裁判官が審査すべきところ、逮捕の現場には一般的に被疑事実に関連する検証すべきものの蓋然性が高く令状審査が不要である点にある。

(2)ア.本件では、甲を現行犯逮捕(213条)した直後に行っており「逮捕する場合」に当たり、犯行現場たる甲宅の庭で行っており「逮捕の現場」といえる。

イ.本件は、前述のように犯行現場が甲宅の庭である以上、庭に散乱した皿等を片付けて証拠隠滅を行うことは容易であると考えられるから「必要があるとき」といえる。

(3)ア.上記220条1項の趣旨より、逮捕に伴う捜索差押で差し押さえることができる物とは、逮捕の基礎となった被疑事実に関連する物であると考える。

イ.本件被疑事実は傷害であり、皿を投げつけられたこと等によりVが血を流していると考えられることから、床に散乱した食器類は、V傷害の際に凶器として使われたことを推認し、被疑事実との関連性が認められる。

(4)以上より、甲宅の庭における捜索差押は適法である。

4.もっとも、甲とVの関係を解明するための日記、アドレス帳、通信機器、室内インターホンに録画データとして残った防犯ビデオの画像を証拠として確保する必要があると考え、甲方の居間及び玄関についても捜索差押を実施し、居間からスケジュール帳と、玄関に設置されたインターホン内からSDカードを取り出して差し押さえた行為は適法か。まず、本件逮捕場所は甲宅の庭であるところ、甲方の居間及び玄関が「逮捕の現場」といえるか問題となる。

(1)ア.220条1項の趣旨は上記である。そうだとすれば、証拠の現存する蓋然性が高い、逮捕に着手した場所、追跡中の場所及び逮捕した場所で、かつ、通常の捜索差押えが1つの令状について捜索場所と同一の管理権の及ぶ範囲に限られていることから、同様に、これらの場所と直接接する範囲の空間で同一の管理権の及ぶ範囲が「逮捕の現場」に当たるものと考える。

イ.本件において、本件逮捕は甲宅の庭で行われている以上、甲の管理権の及ぶ甲方全体が「逮捕の現場」といえるから、甲宅の居間や玄関も「逮捕の現場」にあたる。

(2)本件捜索差押は現行犯逮捕後の甲宅の庭における捜索差押に引き続いて行われており「逮捕する場合」といえ、甲とVとの人的関係を知るためのアドレス帳等や室内インターホンの防犯ビデオ画像は本件被疑似実に関する証拠であって、室内にこれらが存在する蓋然性が高いのであるから、室内の捜索の「必要があるとき」といえる。

(3)以上より、本件甲方の居間及び玄関における捜索差押は適法である。

5.甲を約4㎞、車で約10分離れたM警察署に移動させて行った甲の着衣内ポケット等の捜索は適法か。この点、上記M警察署は「逮捕の現場」にあたらない。もっとも、本件捜索の対象は甲の身体所持品であるところ、移動先での捜索差押が許されないか。

(1)被疑者の身体所持品の場合は、逮捕場所から移動しても証拠物の存在する蓋然性に変化はない。また、法定されている各種の強制処分については、その本来的目的達成のために必要な付随的措置を合わせ実行可能と解することができ、人の身体の捜索についてはその実施に必要な限度で目的達成に不可欠の付随的措置として場所的移動が可能であると解される。

 そこで、①逮捕した被疑者の身体所持品に対する捜索差押えである場合において、②その場で直ちに捜索差押えを実施することが適当でないときには、③速やかに、被疑者を捜索差押の実施に適する最寄りの場所まで連行したうえでこれらの処分を行ったといえれば、「逮捕の現場」における捜索差押えと同視することができ、許容されるものと考える。

(2)本件捜索は逮捕した被疑者甲の着衣内ポケット等という身体所持品に対するものである(①充足)。Nらが逮捕場所たる甲宅の庭で甲の着衣内ポケットについて捜索を実施しようとしたところ、騒ぎをききつけた報道陣ややじ馬が甲方敷地前に多数集まってきて、中には脚立を立てて甲方庭内の撮影を試みる者も出てきたというのだから、芸能人であり、報道陣や野次馬の好奇の目にさらされやすい甲の名誉が害されているといえる。また、かかる逮捕場所付近の混乱した情況により捜査が進行できない可能性もある。加えて、甲方敷地前に多数の人が集まることによって交通網への影響を及ぼす可能性もあるといえ、その場で捜索差押をすることは適当でないといえる(②充足)。本件捜索は甲宅から約4㎞という近接した場所において、車で約10分という短時間でM警察署という最寄りと考えらえる捜索をするに適した場所に移動させて行っている(③充足)。よって、「逮捕の現場」における捜索差押と同視することができる。

(3)以上より、甲の着衣内ポケット等の捜索は適法である。

  • 設問2について
  • 検察官がVの証人尋問において再現写真を示した行為は不適切ではないか。この点、書面等を用いた尋問は(ア)書面等の成立・同一性について尋問する場合(規則199条の10)又は(イ)記憶を喚起するため必要がある場合(規則199条の11)又は(ウ)供述を明確にするため必要がある場合(規則199条の12)に当たる場合にのみ許されているところ、本件尋問が上記(ア)~(ウ)の場合に該当するか検討する。
  • 本件において、主尋問を開始した検察官は、まず、甲とVとの関係についていくつか質問した後、「続いて被害の状況について質問します」と述べながら〈被害再現見分調書〉添付の写真を手に証人Vに近づくと、「写真を示します。これはあなたが被害にあった状況を撮影したものに間違いありませんか」と質問しているところ、この場面で(ア)写真の成立・同一性について尋問しても全く無意味であるといえる。よって、本件尋問は(イ)か(ウ)の可能性があるといえる。
  • 上記いずれの場合であっても「裁判長の許可」が必要であるところ、本件では裁判長からの明確な許可がなされてはいないと考えられる。

 仮に裁判長の許可があるとする場合、他の要件を満たすか。

  • (イ)に当たる場合、規則199条の11第2項は「書面の内容が承認の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない」と規定しているところ、本件において検察官は被害の状況についての質問を実際にするよりも前に本件写真を手にVに近づいている。通常、証人は質問を聞いて、記憶を喚起し、証言をするところ、質問を聞くよりも前にいきなり再現時の写真を示せば、証人の記憶、供述内容に不当な影響を与えることは容易に想像できることであり、相当でないといえる。
  • (ウ)に当たる場合においても、供述明確化というからには、先になされた供述が存在し、それを写真等で明確にすることが前提であり、被害状況に関し先行する供述が存在しない状況において承認の供述を明確にするために写真を示す行為を適法と認めるのは困難である。
  • 以上より、上記行為は不適切である。
  • 次に、公判調書末尾に本件写真を添付するよう求めた行為は不適切ではないか。この点、規則49条は写真の調書への引用について規定しているが、本件写真は規則49条の要件を満たさないか検討する。まず、同条に基づき添付する書面等について当事者の同意が必要か問題となる。
  • この点、証人に示した写真を参照することが承認の証言内容を的確に把握するために資するところが大きいといえる場合には、かかる写真の調書への引用は適切な措置であるということができる。かかる適切な措置である以上、写真を独立した証拠として扱う趣旨のものではないといえ、当事者の同意を要しないと考える。
  • 本件においては、前述のように写真を示した尋問は不適切なものであった。したがって、当事者の同意を要すると考えられる。もっとも、本件で甲の弁護人は本件〈被害再現見分調書〉を不同意としている。
  • 以上より、上記行為は要件を満たさず不適切であるといえる。