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エクササイズ刑事訴訟法第16問傷害事件②

  • 設問1について

1.本件訴因は「平成29年4月頃から同年5月上旬頃までの間」「L市〇〇×丁目×番×号付近路上と同市□□△丁目△番△号付近路上との間を走行中の普通乗用自動車内、同所に駐車中の普通乗用自動車内及びその付近の路上等」「多数回」と概括的記載がなされているところ、訴因が「特定」(刑事訴訟法(以下略)256条3項)されているといえるか。特定されていない場合は公訴棄却(338条4号)となりうるため、問題となる。

(1)訴因とは、罪となるべき事実とこれを具体化する日時・場所・方法から構成されるものであり、罪となるべき事実が特定の構成要件に該当する事実であることから、訴因が特定されているといえるためには、まず、特定の構成要件に該当することが判別できる程度に具体的事実が示されていることが必要である。もっとも、日時・場所・方法は、それが構成要件要素である場合を除き、罪となるべき事実そのものではなく、訴因を特定する一手段に位置づけられる。

 また、当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項)の下で検察官が審判対象として設定したものが訴因であるため、審判対象の画定という見地から、他の犯罪事実と識別できる程度に具体化されたものであることが必要である。

 そして、256条3項が「できる限り」の特定を要求していることから、犯罪の種類、性質等の如何により、犯罪の日時・場所・方法等を詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、概括的に表示された部分と明確に表示された部分が相俟って、特定の構成要件に該当することが認識でき、他の犯罪事実と識別できる程度に特定されていれば、検察官は証拠に基づいてできる限り訴因の特定を行ったものといえる。

(2)本件において、前述のとおり、検察官の記載した訴因は、犯行の日時が「平成29年4月頃から同年5月上旬頃までの間」、場所が「L市〇〇×丁目×番×号付近路上と同市□□△丁目△番△号付近路上との間を走行中の普通乗用自動車内、同所に駐車中の普通乗用自動車内及びその付近の路上等」、暴行の回数が「多数回」と概括的な記載がなされている。

 もっとも、本件の訴因は傷害罪に係るものであるところ、その構成要件に該当するとの判断は、傷害罪が暴行罪の結果的加重犯であり、結果的加重犯においては基本犯の構成要件が満たされればよいことから、「暴行」行為を示せばよく、暴行の回数が概括的であったとしても同構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実が記載されているといえる。

 確かに、本件を構成する個々の暴行行為を併合罪と解するのであれば、かかる概括的記載では、他の暴行罪・傷害罪との識別ができないようにも思われる。しかし、本件のようにある程度限られた期間・場所において、同様の人的関係・動機を背景に、類似の態様で反復継続された結果、一人のVの身体に一定の傷害が生じたと評価でき、包括一罪と評価することが可能である。よって他の犯罪事実と識別できる程度に具体化されたものであるといえる。

 

(包括一罪の識別)cf.百選44解説5

 

 Vも甲も記憶・供述にあいまいな点が多かったなどの事情から、起訴当時の証拠関係に照らし、概括的な日時・場所・方法による基礎を行うとの検察官の判断にも相応の理由があるといえる。

(3)以上より、本件において訴因が特定されているといえる。

  • 設問2について

1.第1審裁判所は、訴因記載の「下半身に燃料をかけた上ライターで点火」を「何らかの方法で」と変更し、訴因記載の「顔面をバットで殴打する暴行」との事実を認定しないなど、訴因と異なった事実を認定しているが、訴因変更を経ておらず違法とならないか。

訴因変更の要否

(1)当事者主義を採用する現行法の下では裁判所の審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であるところ、その機能は、裁判所に対し審判対象を画定し、その限りにおいて被告人に防御範囲を明示する点にある。

したがって、審判対象の確定に必要不可欠な事実、すなわち①被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実、及び②ほかの犯罪事実と区別するに足る事実、に変更がある場合には訴因変更手続きが必要になると考える。

また、③訴因事実と異なる認定事実が一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるときは、争点明確化による不意打ち防止の要請に基づく措置が取られるべきであり、④検察官が訴因においてこれを明示した場合、原則として、訴因変更手続きを要すると考える。

 もっとも、⑤被告人の防御の具体的な状況等の心理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、⑥判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとは言えない場合には、例外的に訴因変更手続きを経ることなく訴因と異なる事実を認定できると考える。

(2)本件において、暴行態様の一部を認定せず、異なる点火方法を認定している。もっとも、本件変更は弁護人において暴行行為を否認しているとしている。また、弁護人側からの被告人質問において本件当時甲が禁煙していたとの事実が明らかになっている。さらに、弁護人請求にかかる甲の弟に対する証人尋問において甲の弟が専ら野球で使用していたとの証言が得られている。そして、第1審裁判所はかかる事実を踏まえたうえで、点火方法としてライターを用いた事実及び顔面をバットで殴打する暴行を加えた事実につき合理的疑いが残ると考えるに至った。したがって、被告人甲に不意打ちを与えるものではないと認められないし、より不利益にならないといえる(⑤⑥充足)。

(3)以上より、訴因変更は不要であり、本件認定は違法とならない。

  • 設問3について
  • 本件では第1審裁判所が有罪とし、甲が全部無罪を主張して控訴している。控訴裁判所が全部有罪と考えた場合、訴因全部につき有罪とすることができるか。ライターによる点火や、バットによる顔面殴打が当事者間において攻防の対象から外されたといえるかが問題となる。
  • そもそも、訴因制度をとる現行法の下では、審判対象の設定は検察官に委ねられており、検察官は処罰意思のない部分についても処分権限を有している→にもかかわらず、裁判所が検察官からの不服申立てがなかった部分にまで職権調査を及ぼすならば、検察官が処罰意思を放棄して主張を差し控える権限を侵害することになる。そこで、ある1つの犯罪事実につき複数の訴因構成がとれる場合に、それらが検察官の裁量権限内であるときは、検察官がその一方につきあえて控訴を申し立てないのであれば、その部分は攻防の対象から外れ、裁判所は職権調査を及ぼすことができないものと考える。
  • 本件において、前述のように本件暴行行為は包括一罪であると評価できるところ、本件ライターによる点火や、バットによる顔面殴打はそれぞれ暴行行為と評価できるが、あくまでも一人のVの身体に一定の傷害結果を及ぼすことになった暴行行為の一部に過ぎないのであって、もはや独立して1個の犯罪構成要件に当たるということはできない。
  • 以上より、検察官が控訴していない場合であっても、訴因全部につき有罪とすることは許される。