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答案をアップしていきます #司法試験

エクササイズ刑事訴訟法第14問殺人事件

  • 設問1について
  • Nらの平成29年3月11日、甲方近くに停車した捜査用車両の中から、公道上を歩いている甲の姿をビデオカメラで撮影した行為は適法か。この点、身柄拘束した被疑者に対する写真撮影については明文規定が刑事訴訟法(以下法令省略)218条3項にあるが、それ以外の捜査目的で行われるビデオカメラによる撮影行為については法律に規定がないところ、「強制の処分」に該当すれば197条但書に違反することとなる。そこで、「強制の処分」に該当しないか検討する。ここで、「強制処分」の意義が明文上明らかでなく問題となる。

(1)「強制の処分」に当たる場合、刑訴法に特別の定を必要とするという意味で立法による統制を受ける。また、「強制の処分」に該当する手段を実際に用いる場合には、原則として事前の令状審査を必要とするという意味で、司法による統制を受ける。そうだとすれば、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、重要な権利を実質的に制約する処分をいうと考える。

(2)公道を歩行中の被疑者をビデオで隠し撮りをする場合、被疑者の同意を得ておらず、もし隠し撮りをしてよいかを問えば、被疑者は反対するはずであるから、合理的に推認される意思に反するといえ、個人の意思を制圧しているといえる。

次に、重大な権利侵害を伴っているか。本件において、被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由が侵害されている。もっとも、被疑者が撮影された場所は、自宅内等のプライバシー保護の必要性が著しく高い場所ではなく、公道上である。公道上は不特定多数の者が存在しうる場所であって、他者から観察されることを受忍している空間であるといえ、プライバシー保護の必要性はそこまで強くないといえ、被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由はそこまで重大な権利とはいえない。

よって、上記ビデオ撮影は、重大な権利侵害とはいえず、強制処分には該当しない。

(3)以上より、上記ビデオ撮影は任意処分にあたる。

2.もっとも、任意処分といえども被疑者Xの被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由を侵害するおそれがある以上、「目的を達するため必要な限度で」行われなければならない(捜査比例の原則、197条1項本文)。すなわち、当該捜査を行う必要性、緊急性を考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ許容されるものと考える。

(1)本件の被疑事実は殺人事件であり、殺人罪(刑法199条)は死刑ともなりうる重大な犯罪である。

そして、本件事件の死体発見現場近くのコンビニエンスストアに防犯カメラが設置されており、本件被害者Vの死体発見の約5時間前である同月3日午前2時過ぎに黒いスポーツカーに乗った男性と共に同店で買い物をするVの姿が映っていた。そして、この画像をもとに聞き込み捜査を実施したところ、同市内に住む甲が画像の人物に似ているとの情報が寄せられた。そのため、上記防犯カメラに写っていた人物が本件事件の犯人である可能性が高いのであるから、上記防犯カメラに写っていた人物と甲の同一性を確認する必要性が高度に認められる。

また、ビデオ撮影は、甲の表情など挙動も含めて撮影することで本件本犯カメラに写っていた人物と甲が同一人物であるかを明快に確認することができ、犯人の特定を相当程度確実なまでに行うことができる。そして、隠し撮りについてもばれてしまえば逃走され撮影ができなくなるおそれがある以上、ビデオで撮影する必要が強く認められる。

 さらに、本件事件は人の命も失われている重大な犯罪であり、犯人が未検挙であることは、新たに同様の事件が起こされるおそれもあると考えられるから、B宅周辺の住民は不安に感じるはずであり、緊急性も認められるといえる。

 これに対して、確かに甲はみだりに容貌等を撮影されない自由を侵害されている。しかし、公道という他者からの観察を一定程度受忍するべきである空間におけるビデオ撮影である以上、被侵害利益としてはやはり重要なものとはいえない。

(2)以上より、上記ビデオ撮影は被侵害利益の重大性よりも捜査の必要性、緊急性が勝っているため、具体的状況の下、相当といえ本件捜査は適法である。

3.さらに、Nらの防犯カメラの画像に写っていた人物がはめていたブレスレットと甲がはめているブレスレットとの同一性を確認するため、同月13日、甲が飲食していたファミリーレストランの店長に依頼し、店内の防犯カメラと、所持していた小型ビデオカメラを用いて、店内で飲食中の甲をビデオ撮影した行為は適法か。

(1)「強制の処分」とは上記をいうところ、ファミリーレストランで飲食中の被疑者をビデオで隠し撮りをする場合、被疑者の同意を得ておらず、もし隠し撮りをしてよいかを問えば、被疑者は反対するはずであるから、合理的に推認される意思に反するといえ、個人の意思を制圧しているといえる。

次に、重大な権利侵害を伴うかにつき、本件において、被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由が侵害されているが、被疑者が撮影された場所は、自宅内等のプライバシー保護の必要性が著しく高い場所ではなく、ファミリーレストランである。確かにファミリーレストランは公道上と比べるとプライバシー保護の必要性がより高い空間であると考えられるが、不特定多数の者が存在しうる場所であって、他者から観察されることを受忍している空間であるといえ、プライバシー保護の必要性はそこまで強くないといえ、被疑者のみだりに容貌等を撮影されない自由はそこまで重大な権利とはいえない。

(3)以上より、上記ビデオ撮影は任意処分にあたる。

2.もっとも、上記「目的を達するため必要な限度で」行われているか。

(1)前述のように本件事件は重大犯罪である。

 本件で、上記防犯カメラの画像に写っていた人物はブレスレットをはめていた。前述のように上記防犯カメラの画像に写っていた人物が犯人である可能性が高く、上記かかる人物について寄せられた情報から甲が犯人である嫌疑が高い以上、防犯カメラの画像に写っていた人物がはめていたブレスレットと甲がはめているブレスレットとの同一性を確認する必要性は高いといえる。

 確かにビデオ撮影は、前述のように甲の表情など挙動も含めて撮影するものであり、単にブレスレットを撮影する目的であるのならば、防犯カメラのみ、もしくはカメラ撮影で十分であるようにも思われる。しかし、ブレスレットというのは手首につける装飾品であり、洋服の袖などで隠れてしまう可能性が高い。また、食事中は両手を動かすことが多いから、固定されている店内防犯カメラやカメラ撮影ではブレスレットが見えている状態を撮影することが困難であると考えられる。よって、ビデオ撮影の必要性が高度に認められる。そして、前述のように逃走のおそれを考えると隠し撮りをした点についても必要性が高いといえる。

 前述のように緊急性も認められるといえる。

 これに対して、確かに甲はみだりに容貌等を撮影されない自由を侵害されているが、ファミリーレストランという他者からの観察を一定程度受忍するべきである空間におけるビデオ撮影である以上、被侵害利益としてはやはり重要なものとはいえない。

(2)以上より、上記ビデオ撮影は被侵害利益の重大性よりも捜査の必要性、緊急性が勝っているため、具体的状況の下、相当といえ本件捜査は適法である。

  • 設問2について
  • 本件〈顔貌鑑定書〉は、高度な科学的原理・技術を用いているがゆえに、科学的証拠として証拠能力を否定され得ないか。自然的関連性が認められるか問題となる。

(1)そもそも、自然的関連性とは、証拠に要証事実を推認させるのに必要な最小限度の証明力がなければならないことをいうところ、顔貌鑑定においては①その科学的原理が理論的正確性を有し、②具体的な実施の方法も、その技術を習得した者により、科学的に信頼される方法で行われたと認められる場合に限り、最小限度の証明力を有するとして、自然的関連性が認められるものと考える。

(2)本件顔貌鑑定は、スーパーインポーズ法・形態学的検査・統計学的方法を併用するもので、科学的原理が理論的正確性を有するといえる(①充足)。また、画像処理に当たったP及び鑑定を行ったQは、それぞれの分野における専門性を備えており、用いた具体的方法についても、科学的に信頼される方法であると考えられる(②充足)。

2.では、本件鑑定書に法律的関連性は認められるか。

(1)本件鑑定書は、「甲と防犯ビデオの人物との同一性」という要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる公判期日外証拠なので、伝聞証拠にあたり、同意なき限り(326条1項)原則として証拠能力が認められない(320条1項)。

(2)もっとも、法は証拠とすべき必要性と、信用性の情況的保障が認められる場合には、伝聞証拠であっても例外的に証拠能力を認めている(伝聞例外、321条以下)。そこで本件鑑定書も伝聞例外として証拠能力が認めれられないか。

(3) 本件〈顔貌鑑定書〉は、「鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成した者」(321条4項)にあたるから、鑑定人の真正供述を要件として証拠能力が肯定される。

  • 本件【精神鑑定書】に証拠能力が認められるか。本件【精神鑑定書】が伝聞証拠に当たるか問題となる。
  • そもそも、320条1項により伝聞証拠が証拠能力を否定されている趣旨は、供述証拠は人の知覚、記憶、表現、叙述という過程を経るため、その各過程で誤りが生じるおそれが高いにもかかわらず、宣誓(154条、規則116条~120条)、反対尋問、偽証罪による観察という真実性の担保に欠ける点にある。とすれば、伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題となるものをいうと考える。
  • 本件鑑定書は、甲の公判廷外における供述を内容とする証拠である(①充足)。次に、②について、まず本件の公訴事実は殺人事件である。そして、公判廷での争点は甲の責任阻却事由の不存在及び主観的構成要件該当事実である。そして、検察官の意見を総合して具体的に考えると立証趣旨は「甲の責任能力及び殺意の存在」である。また、犯行当時、甲は事物の理非善悪を弁識する能力又はこの弁識に従って行動する能力が欠如又は著しく減退していたとはいえないということといったことから「殺意の存在」を推認することはできず、関連性はないことから、かかる立証趣旨を要証事実として採用することはできないが、かかる証拠は責任能力を立証することができる。よって、本件鑑定書は、責任能力の立証という要証事実との関係で内容の真実性が問題となり②を満たす。

 したがって、本件鑑定書は伝聞証拠にあたり、同意なき限り(326条1項)原則として証拠能力は認められない。

  • もっとも、法は証拠とすべき必要性と、信用性の情況的保障が認められる場合には、伝聞証拠であっても例外的に証拠能力を認めている(伝聞例外、321条以下)。そこで、本件【精神鑑定書】も伝聞例外として証拠能力が認められないか。本件【精神鑑定書】は「鑑定の過程及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したもの」に当たり、321条4項の要件を満たさないか。

もっとも、本件【精神鑑定書】は担当検察官Rによって鑑定を嘱託された者(223条1項)が作成した鑑定書であるが、係る場合にも321条4項が適用されるか。321条4項は裁判所又は裁判官の命じた鑑定人の作成した鑑定(165条、179条等)の経過及び結果を記載した書面を予定しているため問題となる。

ア.そもそも、321条4項の趣旨は、特別な学識経験を有する者によるその学識経験に基づく判断意見という性質から類型的な正確性が認められること、及び書証による報告の方が口頭による報告よりも正確性が高いことから、緩やかな要件で証拠能力を認めた点にある。そうだとすれば、鑑定人が作成した鑑定書ではない場合でも、特別な学識経験を有するものがその学識経験に基づいて判断意見を記載したと認められる書面については、321条4項を準用すべきものと考える。

イ.この点、鑑定受託者も裁判所の命じた鑑定人と同様、特別な学識経験を有し、その学識経験に基づき書面を作成したといえるから、準用できると考える。

ウ.したがって、鑑定受託者が作成の真正を証言すれば、鑑定書全体について証拠能力が肯定できると考える。

(4)しかし、本件【精神鑑定書】には、Sが被告人から聞き取った内容を記載した「6 問診結果」という部分が存在するところ、この部分が立証趣旨「殺意の存在」との関係で伝聞証拠にあたり、証拠能力が否定されないか。上記判断基準に従って検討する。

ア.本件甲の供述は公判廷外の供述にあたる(①充足)。また、前述のように本件立証趣旨は「甲の責任能力及び殺意の存在」である。

「6 問診結果」において、甲はSからの問いになんら問題なく答えており、そのこと自体から責任能力を有することが推認できる。よって、立証趣旨の「責任能力」との関係では非伝聞であるといえる。

「6 問診結果」において、甲の「悪口を言われ、とっさに、かっとなって、殺してやる、と思った。」との供述が記載されている。かかる証拠は真実性にかかわると考えられるから(②充足)、伝聞証拠であると考える。

  • そこで、上記と同様に考えて本件「6 問診結果」も伝聞例外として証拠能力が認められないか。本件「6 問診結果」は「被告人の供述を録取した書面」にあたるため、322条1項の要件を満たすか検討する。
  • この点、「6 問診結果」部分には被告人の署名押印が欠けることから、証拠能力は否定される。

エクササイズ刑事訴訟法第13問遺棄事件

  • 設問1について

1.弁護人は、甲は死体遺棄罪の単独犯で起訴されているところ、共犯者である乙が関与していることが明らかとなっていると主張する。そこで、本件は本来ならば共犯関係が成立するにもかかわらず、検察官があえて、実行行為を行ったものを単独犯として起訴した不適法・無効な起訴として公訴棄却(刑事訴訟法(以下略)338条4項)すべきか。一罪の一部起訴の可否が問題となる。

(1)当事者主義的訴訟構造(256条5項、298条1項、312条1項)の下、訴因制度のもと、訴訟物の設定は一方当事者たる検察官に委ねられており(247条)、検察官は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる(起訴便宜主義、248条)。よって、検察官は訴追裁量を有する。

また、検察官は起訴便宜主義に基づき審判対象の設定・変更権限(256条、312条)が与えられており、それが合理的裁量の範囲内である限り一罪の一部起訴は違法の問題は生じない。

(2)実行行為者がその人一人によって犯罪構成要件のすべてが満たされているならば、他に共謀共同正犯者がいても、訴因通りに認定できる。本件でも、V発見現場近くで甲が一人で運転する車の目撃情報があるから甲が死体遺棄の実行行為全体への関与をしたことは認められる。それに対して、甲は乙に関してあいまいな供述をしているという状況を考慮すると、甲を死体遺棄罪の単独犯で起訴することは合理的裁量の範囲内にあったものといえる。

(3)以上より、弁護士による公訴棄却の主張は認められない。

  • 設問2について

1.「保護責任者遺棄又は死体遺棄」と事実を認定しているが、このような概括的な認定をおこなうことは、そもそも、「犯罪の証明があったとき」(333条1項)といえるのか。

(1)そもそも、罪刑法定主義憲法31参照)とは、被告人の行為を犯罪として処罰するには、行為の時点において、その可罰性が法律上定められていなければならないとすることに尽きるものではなく、有罪判決が許されるために証明されるべき対象が、実体法上の構成要件を基準に個別化されることをも要請するものと考えるべきである。そして、刑罰権はいずれかの構成要件ではなく、個別特定の構成要件を充足することによって生じるのであるため、異なる構成要件の犯罪を択一的に認定する場合、それ自体としては犯罪が証明されておらず、個別特定の構成要件ではなく、合成的構成要件によって処罰することになってしまう。そうだとすれば、このような構成要件を異にする訴因事実の択一的認定は、罪刑法定主義の証明対象の構成要件的個別化の要請に反するため、被包摂事実の範囲で認定するにすぎない予備的認定といえる場合を除き、許されないものと考える。

では、利益原則についてはどうか。そもそも、審判対象を訴因とする現行法の下、「被告事件」とは訴因を意味するので、訴因の特定にとって必要不可欠な事実について合理的な疑いを容れない証明がなされていれば、有罪判決は許される。そして、たとえ構成要件内だとしても、訴因にとって必要不可欠な事実が択一的にしか認定されていないとしたら、疑わしいときに被告人の不利益に認定することになってしまい、利益原則に反するといえる。そこで、択一的認定が、訴因特定にとって必要不可欠な事実につきなされている場合には、利益原則に反し、許されないものと考える。

(2)保護責任者遺棄罪と死体遺棄罪は、構成要件が異なる上、包摂関係にもないので、罪刑法定主義に反するといえる。また、人の生命・身体を保護する保護責任者遺棄罪の違法性を基礎付ける被害者の生きていたことと宗教的感情あるいは死者に対する敬意感情を保護する死体遺棄罪の違法性を基礎付ける被害者の死んでいたこととでは、立証の対象が異なるため、保護責任者遺棄罪にあたらないとしても、別個に死んでいたことの証明が必要である。よって、包摂関係にないため、利益原則にも反する。

(3)したがって、上記概括的な記載は許されない。

2.もっとも、殺人罪死体遺棄罪どちらかを行ったかが明らかになっているわけではない。では、裁判所は、この場合犯罪の軽い罪である死体遺棄罪について、裁判所は有罪判決することは、利益原則に反することになるのでないか。

(1)確かにこの点、国民の処罰感情等に配慮して、少なくとも死体遺棄罪については成立することが明らかなのであるから、利益原則を重い罪について適用して小さい罪を認めることも考えられる。しかしながら、そもそもそのような認定は、矛盾のない事実認定とはいいがたい上、そもそもなぜ利益原則をまずもって重い罪に適用すべきなのかに合理的理由がない以上認められない。そこで、小さい罪である死体遺棄罪についても認定することは許されない。

(2)以上より、裁判所は死体遺棄罪の罰条で処断することができない。

  • 設問3について
  • 単独犯で起訴されているが、裁判所は共犯者の存在及び共謀があったことも心証に抱いている。この場合、判決段階で、訴因変更手続きを経ずに、「乙と共謀の下」と認定することができるのか。

(1)当事者主義を採用する現行法の下では裁判所の審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であるところ、その機能は、裁判所に対し審判対象を画定し、その限りにおいて被告人に防御範囲を明示する点にある。

したがって、審判対象の確定に必要不可欠な事実、すなわち①被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実、及び②ほかの犯罪事実と区別するに足る事実、に変更がある場合には訴因変更手続きが必要になると考える。

また、③訴因事実と異なる認定事実が一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるときは、争点明確化による不意打ち防止の要請に基づく措置が取られるべきであり、④検察官が訴因においてこれを明示した場合、原則として、訴因変更手続きを要すると考える。

 もっとも、⑤被告人の防御の具体的な状況等の心理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、⑥判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとは言えない場合には、例外的に訴因変更手続きを経ることなく訴因と異なる事実を認定できると考える。

(2)本件において、単独正犯から、共同正犯への変動が生じている。この場合確かに「共謀」が客観的成立要件として必要である。しかしながら、単独犯としてすでにすべての構成要件について充足している場合については、なお単独犯として処罰し得るのであり、共謀という要件は少なくとも単独犯として成立要件を満たしている場合は、共謀は、処罰拡張規定にすぎない。よって、背後者の存在は、審判対象確定の見地から必要な事実でない。そして単独犯か共同正犯かは、被告人にとって重要な事実であるといえる(③充足)しかし、共犯事件と主張を行っていて不意打ちとはいえない。また共犯者がいたとしても、甲は共犯者乙から指示を受けて実行に及んだと認定されている以上、より不利益にならない。

(3)以上より、訴因変更は不要であるといえる。

2.次に、「単独又は乙と共謀の下」との認定は許されるのか。

(1)本件においても同様に訴因変更の要否が問題となるところ、本件では前述の場合と違って、単独犯の場合は、間違いなく成立するのであるから、審判対象からは不要である。また、単独犯か共同正犯かは、本来の構成要件か修正された構成要件かの違いにすぎず、同一構成要件内の変動であるといえる。しがたって、訴因変更は不要である。

(2)では、そもそも「単独又は共謀の上」という択一的認定が許されるか。

ア.この点、上記罪刑法定主義及び利益原則という2つの観点からみると、本件において単独犯と共同正犯には基本形式か修正形式かの違いはあるが、同一の構成要件内の択一的認定なので、罪刑法定主義には反しない。また、共謀の事実が立証されていなくても、少なくとも被告人が実行したという事実は証明されており、単独犯の立証に欠くところはない。よって、利益原則にも反しない。

イ.以上より、「単独又は乙と共謀の下」との認定は許される。

旧司平成16年度第1問憲法

【問題】

13歳未満の子供の親権者が請求した場合には,国は,子供に対する一定の性的犯罪

を常習的に犯して有罪判決が確定した者で,請求者の居住する市町村内に住むものの氏

名,住所及び顔写真を,請求者に開示しなければならないという趣旨の法律が制定され

たとする。この法律に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。

 

【解答】

 

  • Xとしては、本件法律はXのような過去に性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者の氏名、住所及び顔写真等の個人情報をみだりに他人に知られない自由(憲法13条)を侵害し違憲であると主張する。

(1)個人の私的領域を保護する趣旨から、憲法13条により自己情報コントロール権としてのプライバシー権が保障される。

 本件においても、上記私的領域を保護する趣旨に鑑みて、上記個人情報をみだりに他人に知られない自由は憲法13条により保障される。また、Xのような子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者の上記個人情報を公開すると、その者らが性犯罪を犯したことまでも公開することとなる結果、その者らの前科を公開することに等しい。

(2)本件において、Xのような過去に性犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者は、氏名、住所、顔写真について、13歳未満の子供の親権者が請求した場合にはそれを開示されることとなっており、上記自由の制約がある。

(3)氏名、住所、顔写真といった個人情報はそれにより個人を特定することができる情報といえるから、それらを他人にみだりに知られない自由の重要性は高いといえる。加えて、前科というのは人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科をみだりに公開されない自由の重要性は非常に高い。

 また、本件開示は、13歳未満の子供の親権者であればだれでも請求できるところ、本件開示で知りえた事情を人に話すことも十分に考えられるから、本件開示によりXのような犯罪を犯した者の個人情報は広く知れ渡ることとなりうる。Xのような者は自己が過去に性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定したことを多くの者に知られれば、平穏な社会生活を送ることが困難となることから、上記個人情報を知られない自由の侵害による制約の強度は強いといえる。

(4)権利の重要性が高いこと及び制約の強度が強いことより、本件法律は真にやむを得ない利益のために必要不可欠かつ必要最小限度の立法手段でなければ違憲であると考える。

本件法律の目的は、再犯率が高いとされる性犯罪者から未成年者を保護する点にあると考えられる。もっとも、性犯罪の再犯率が他の犯罪と比べて高いという立法事実が存在しない以上、性犯罪の再発防止目的は真にやむを得ない利益とはいえない。

 また、上記性犯罪者の氏名、住所及び顔写真を請求者に公開することは、かかる犯罪者の住居を特定することを可能とするものである。かかる犯罪者の住む地域の未成年者を保護するために注意を促すことを目的とするのであれば、かかる犯罪者の住む地域のみを開示することで足りるといえるから、手段の必要最小限度性を欠く。

(5)以上より、本件法律は上記自由を侵害し違憲である。

2.被告側は、以下のように反論する。

(1)まず、氏名や住所などの単純情報は憲法13条により保障されない。顔写真も、通常容貌というのは他者に見られることを受忍しているものであるから、憲法13条により保障されない。また、前科情報も公的情報であることから、憲法13条により保障されているといえない。

(2)仮に保障されるとしても、上記情報は秘匿されるべき重要性は高いとは言えず、厳格審査は妥当しない。かかる場合、目的が正当で、手段が目的と合理的関連性を有すれば合憲と考える。

(3)本件目的は、性犯罪から未成年者の生命身体を保護する点にあり違法とはいえないから正当である。本件手段は上記情報を請求者に開示することであり、上記目的に資するものであるから合理的関連性を有する。

(4)以上より、本件法律は合憲である。

3.以下、私見を述べる。

(1)氏名住所等は確かに単純情報であるが、自己の望まない他者にこれを開示される場合には個人の私生活領域が害されるといえる。よって、上記憲法13条の趣旨に反するから13条の保障を受けると考える。

 顔写真については、被告側の反論のとおり容貌は他者からみられることを受忍しているものであるが、自己の知りえない場所においてまで自己の容貌をみられることを受忍しているとはいえない。さらに、現代の情報社会においては顔写真が開示されることにより私生活領域は侵害されうる。したがって、13条により保障されると考える。

 前科は、確かに公的情報であるが、一般的に時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項であり、前科を公表されれば私生活領域が著しく侵害されうるから、13条により保障されると考える。

(2)上記情報は個人の私生活領域を侵害し得る。さらに現代の情報社会においてはこれらの情報が組み合わさることで、容易に個人を特定することができる。したがって、上記情報は秘匿性の高いものであり、これらを公表されない自由は重要な権利といえる。また、これらの情報が公開されれば個人の私生活領域は著しく侵害されるといえる。

(3)したがって、目的が必要不可欠で手段が最小限度でなければ違憲と考える。

ア.本件目的は性犯罪者から未成年者の生命身体を保護する点にあるところ、生命身体という法益憲法によって保護される重要な者であり、必要不可欠といえる。

イ.本件手段は上記情報を請求者に対し公表することである。この点、たとえ請求者という限られた人に情報を公表しても、同市町村内にいる住民に情報が伝播され、情報を公表された者の自由が著しく侵害されるおそれが高い。また、情報を警察官のみに開示して、パトロールを強化することにより、上記目的を達成するというより制限的でない手段もとることができるのであるから、本件手段は必要不可欠とは言えない。

(4)以上より、本件法律は憲法13条に違反し違憲であると考える。

エクササイズ刑事訴訟法第12問覚せい剤所持事件

  • 設問1について
  • 逮捕に伴う捜索差押の前提として本件甲の現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下略)213条)は適法か。

(1)逮捕を行なうためには原則として令状が必要となる(憲法33条、刑訴法199条)。その趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対して、現行犯逮捕の場合には、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから誤認逮捕のおそれが低く、他方で犯人逮捕の必要性も高いことから、令状主義の例外として無令状で行なうことが許される。

したがって、現行犯人に当たるとして現行犯逮捕が適法とされるためには、①犯罪と犯人の明白性、②犯罪と逮捕行為との時間的接着性、③逮捕の必要性が必要となる。犯罪と犯人の明白性を判断するに当たっては、逮捕現場の客観的事情、現場における被害者の挙動、その他逮捕者自らが直接覚知した客観的事情を資料とするが、被害者・目撃者の通報・供述、被逮捕者の供述も、客観的資料を補充するものとして認定資料とすることができる。また、現行犯逮捕について逮捕の必要性に関する明文規定はないが、現行犯逮捕も逮捕の一類型であることに鑑みて、逮捕の必要性が要件になると解する。

(2)本件において、甲は予試験を実施して覚せい剤成分の反応が出ている以上は犯人の明白性が認められているといえる(①充足)。そして、予試験を行った201号室内の玄関付近において予試験を行った後すぐに現行犯逮捕したものと考えられるから時間的接着性がみとめられる(②充足)。甲は警察に荷物の中身を聞かれたときに「ばれてたんですね。それなら聞かなくても分るでしょう」などと答えるなど、覚せい剤所持をほのめかすような発言をしており、上記犯人の明白性も認められる以上、犯罪の嫌疑は高く、覚せい剤は水溶性であり、簡単に証拠を隠滅することができるから、甲を逮捕する必要性が認められるといえる(③充足)。

(3)以上より、本件現行犯逮捕は適法である。

  • もっとも、逮捕に先立つ行為としてNらは宅配便業者の営業所長の了解を得て甲宛荷物のエックス線検査を実施している。エックス線検査については法律に規定がないところ、「強制の処分」に該当するのであれば197条但書に違反することとなる。そこで、本件エックス線検査は「強制の処分」に該当しないか。「強制の処分」の意義が明文上明らかでなく問題となる。
  • 強制処分に該当する場合、197 条 1 項但書により、刑訴法に特別の定を必要とする。また、強制処分に該当する捜査手法を用いる場合には事前の令状審査が必要となる。このように立法による統制と司法による統制を受けるほどの処分であるため、強制処分とは、個人の意思に反し、重要な権利利益に実質的に制約を加える処分を意味すると解すべきである。
  • 本件で用いられたエックス線検査は、空港で使用されている手荷物検査用の機会を使用し、中身を開披することなく外部からエックス戦を照射することにより、内容物の影を画面に映し出し、その映像からわかる範囲で内容物を推定するというものであり、3回検査を行って、1回目では内容物が判然としなかったものの2回目3回目では内容物が袋に入った結晶状のものであることが判明したという。よって、かかる検査は荷物を開披した場合と同様に中身を特定することができるものといえ、荷物の所有者の意思を制圧し、その所有者のプライバシー等を大きく侵害するものといえ、強制処分に当たると考える。
  • 以上より、本件エックス線検査は無令状で実施されたものとして違法である。また、それに密接に関連する手段として実施された現行犯逮捕手続きについても違法となる可能性が高い。

3.甲に対する覚せい剤所持の被疑事実によって、W方の捜索を行っているが、これは220条に規定する無令状差し押さえとして適法か。以下検討する。

(1) 本件では、無令状で捜索差押をしており、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に違反するのが原則である。令状主義の趣旨は、捜索差押という人のプライバシー領域への強制的侵入による重要な権利利益の侵害制約についてこれを捜査機関限りの裁量に委ねず、中立公平な第三者である裁判官の事前の司法審査を解することで、個別具体的事案について捜査目的と基本権との合理的調整を図る点にある。

これに対し、逮捕に伴う捜索差押が無令状で行える(220条1項)趣旨は、本来令状主義の下、「理由」として被疑事実と関連する検証すべきものの関連性を令状裁判官が審査すべきところ、逮捕の現場には一般的に被疑事実に関連する検証すべきものの蓋然性が高く令状審査が不要である点にある。

(2)ア.本件では、甲を現行犯逮捕(213条)した直後を行っており「逮捕する場合」に当たる。

イ.「必要があるとき」とは、罪証隠滅の恐れが認められることをいう。本件は、覚せい剤というのは水溶性で隠滅が容易にできること及び上記エックス線検査より甲が覚せい剤をまだ持っている可能性が高いことより、「必要があるとき」といえる。

(3)本件で逮捕現場は、W方であるところ、犯人であるVとは無関係の者の家を捜索している。そこで、「逮捕の現場」(220条1項2号)といえるのかが問題となる。

ア.220条1項の趣旨は上記である。そうだとすれば、証拠の現存する蓋然性が高い、逮捕に着手した場所、追跡中の場所及び逮捕した場所で、かつ、通常の捜索差押えが1つの令状について捜索場所と同一の管理権の及ぶ範囲に限られていることから、同様に、これらの場所と直接接する範囲の空間で同一の管理権の及ぶ範囲が「逮捕の現場」に当たるものと考える。ただし、「逮捕の現場」が被逮捕者以外の管理権に服する場所である場合には、222条1項、102条2項より、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」許容されるものと考える。

イ.本件逮捕はW方で行われている以上、W方全体が「逮捕の現場」となる。ただし、W方は被逮捕者甲以外の者であるWの管理権が及ぶ場所である。本件では甲が路上で荷物を受領しているにもかかわらず、W方を捜索する意図の下、わざわざ甲をW方に移動させて現行犯逮捕し、そのうえでW方を捜索したという経緯がある。確かに、甲とWの人的関係に照らせば、W方において覚せい剤又は関連証拠が存在する蓋然性があるし、路上において予試験を行うことは甲の権利保護や交通への支障の見地から相当とはいえないとも思われる。もっとも、予試験を行うために甲を移動させるにしても警察車両内や最寄りの警察署などW方以外にも適当な場所があったはずであり、W方を捜索したいという意図のもとに甲をあえてW方に移動させたという点を考慮すると、本件ではW方についての捜索差押許可状の発付を受けていない以上、本件W方の捜索差押は令状主義に反して違法であるといえる。

(4)以上より、本件捜索差押は違法である。

  • 設問2について

1.上記の違法な先行手続きの後に得られた本件尿鑑定書は、証拠禁止に当たり証拠能力が否定されないか。

(1)確かに、証拠の収集手続に違法があったとしても、証拠物自体の性質や形状に変化はなく、当該証拠の証拠価値も類型的に低下しないため、このような場合でも証拠能力を認めるべきであるようにも思える。しかし、違法な手続によって得られた証拠をいかなる場合にも証拠能力が認められるとすると、司法の廉潔性、適正手続の保障(憲法31参照)、将来の違法捜査抑止の観点から妥当でないといえるので、一定の場合には証拠能力を否定すべきである。そこで、当該証拠収集手続につき、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には、当該証拠の証拠能力は否定されるものと考える。

(2)本件において、後行の採尿手続それ自体は適法である。また、本件無令状検証及び現行犯逮捕の一連の手続と採尿手続は甲に対する覚せい剤事犯の捜査という点で同一目的・直接利用の関係にある。

先行手続の違法性が後行手続に承継されると考えると、先行手続である無令状検証及び現行犯逮捕の一連の手続の法規逸脱の程度について検討する必要があるところ、前述のように本件無令状検証及び現行犯逮捕の一連の手続きは違法であるといえる。

確かに、本件手続の際に警察官から有形力行使されたという事情はない。加えて、路上で声をかけるなど、被告人の承諾を求める行為に出ている。後行の採尿手続自体に強制もなく、被告人の自由な意思に基づき行われている。もっとも、本件無令状検証は甲をあえてW方まで移動させた点に令状主義潜脱意図は認められ、法規逸脱の程度が大きいといえる。よって違法の重大性は認められる(①充足)。

確かに、覚せい剤使用は証明することが難しく、採尿以外の方法によることが難しく、尿鑑定書は証拠として重要であるといえる。もっとも、甲が逮捕された後勾留中に尿の任意提出を求められたという点で無令状検証及び現行犯逮捕の一連の手続と尿鑑定書との間の因果性は強いといえる。また、本件無令状検証において甲をあえてW方まで移動させた捜査のような令状主義潜脱意図をもつ違法な捜査が一度認められれば、将来的にも違法捜査を繰り返す可能性が認められる。したがって、排除相当性も認められない(②充足)。

(3)以上より、本件尿鑑定書の証拠能力は認められない。

2.証拠能力が認められない尿鑑定書を疎明資料として、捜索差押許可状が発布され、これによって、覚せい剤3袋が発見された。このような派生証拠についても、尿鑑定書と因果関係を有する証拠として、証拠能力が認められないのではないか。

(1)そもそも、違法収集証拠排除法則の根拠は、司法の廉潔性、適正手続の保障(憲法31参照)、将来の違法捜査抑止という点にあるが、違法に収集された証拠を排除するだけで、その証拠によって得られた派生証拠を排除しないとすると、このような根拠を貫徹することができず、違法収集証拠排除法則の実効性を欠くことになるといえる。そこで、第1次的証拠の違法の程度、収集された第2次的証拠の重要性・事件の重大性、第1次的証拠と第2次的証拠の関連性の程度、捜査機関の意図等を考慮し、排除することが相当と認められる場合には、派生証拠の証拠能力は認められないものと考える。

(2)本件差押えは、無令状検証に引き続いており、あえて甲をW方に移動させたという点で、違法が重大であるといえる。また、検挙の難しい覚せい剤所持事件において、甲の自宅において差し押さえられた覚せい剤3袋の存在は証拠として重要である。証拠能力が認められない尿鑑定書を疎明資料として、捜索差押許可状が発布され、これによって、覚醒剤が発見されたというのであるから、本件尿の鑑定書がなければ捜索差押令状の発付が認められなかったといえ、本件尿の鑑定書と本件甲方から発見された覚せい剤3袋との間には密接な因果関係が認められる。したがって、本件尿の鑑定書と本件覚せい剤3袋間には強い関連性が認められる。

(3)以上より、本件覚せい剤3袋に証拠能力は認められない。

エクササイズ刑事訴訟法第11問背任事件

  • 設問1について

1.罪名を「会社法違反」とのみしか記載していないが、適用法条まで記載する必要があるのではないか。刑法犯の場合には構成要件の一般名が記載されるため、罪名のみでいかなる被疑事実なのか明らかであるのに対し、特別法違反の場合には、刑法犯と異なり明らかでないため問題となる。

(1)そもそも、219条が「罪名」の明示を要求した趣旨は、令状が罪名によって表示されている特定の被疑事実に関する限りにおいて正当な理由に基づき発布されたものであることを示し、捜査機関がその令状を他事件に流用するのを防止する点にある。そして、適用法条が記載されていなくても、場所や物等のほかの記載とあいまって他事件への流用は防止できる。また、憲法35条は、令状が正当な理由に基づいて発付されたことを明示することまでは要求していないため、被疑事件の罪名を適用法条を示して記載することは憲法上要求されていない。そこで、適用法条の明示は不要と考える。

2.本件捜索差押令状は、捜索すべき場所を「H県I市J町〇丁目△番地株式会社L銀行本店ビル」とやや広範に記載しているが、かかる記載で捜索すべき場所が特定されたといえるか(憲法35条、刑訴法219条1項)。

(1)そもそも憲法35条、刑訴法219条1項が捜索すべき場所の特定を要求した趣旨は、令状審査に当たり「正当な理由」の存在についての令状裁判官による実質的認定を確保し、その審査を通じて、捜査機関による捜索及び差押えの権限を、「正当な理由」があることが裁判官によって事前に確認されたうえで令状に記載された範囲に限定する点にある。そうだとすれば、「捜索すべき場所、身体若しくは物」については、それについて裁判官による「正当な理由」、すなわち、その場所等に証拠物が存在する蓋然性があるかの審査を可能にし、かつ、捜査機関(及び処分を受ける者)にとって、捜索の対象となる場所等とそうでない場所等が識別可能な程度に、対象が特定されていることが必要である。

そして、 捜索対象が住居等の場所である場合には、空間的に他の場所と明確に区別するとともに、その場所の管理権ごとに区分しなければ、捜索期間は捜索のできる場所とそうでない場所を識別することができない。そこで、場所の捜索の場合には、空間的位置の明確性と管理権の単一性を満たす場合に限り、特定されているものと考える。

(2)本件において、「H県I市J町〇丁目△番地株式会社L銀行本店ビル」と番地及びビル名まで示されているのであるから、空間的位置は明確に表されている。また、本件「株式会社L銀行本店ビル」はビル全体にL銀行の管理権が及んでいるものと考えられるから、管理権の単一性を有しているといえる。

(3)したがって、かかる記載で捜索すべき場所が特定されているといえる。

3.差し押さえるべき物を「本件に関連する融資稟議書、担保明細書、取締役会議事録、帳簿、メモ等」と概括的な記載がなされているが、かかる記載で差し押さえるべき物の特定がされたといえるか(憲法35条、刑訴法219条1項)。

(1)ア.この点、憲法35条及び刑訴法219条1項の趣旨は捜査権の濫用を防ぐという点にあるため、差し押さえるべき物の記載は、捜査機関が令状の記載自体から差押対象物件にあたるかを合理的に識別できる程度のものでなければならない。一方で、捜索・差押えは捜査の初期の段階で行われることが多く、実際上特定が困難な場合がある。したがって、憲法35条及び刑訴法219条1項の捜査権の濫用を防ぐという趣旨を没却しない限り許容されると考える。よって、具体的な列挙に続いて概括的記載がなされる場合であれば、被疑事実に関係があり、かつ例示物件に準ずる物件を差押えの対象としていることが明らかである場合、差押えの対象は特定されていることになる。

イ.本件のように具体的な例示を含む概括的な記載は、被疑事実に関係があり、かつ例示物件に準ずる物件を差押えの対象としていることが明らかであるといえ、差押えの対象は特定されているといえる。

(2)以上より、本件捜索差押許可状の差し押さえるべき物の記載は適法である。

3.Nらの乙の所持していたアタッシュケースを捜索した行為は場所に対する捜索差し押さえ令状の効力として許容されるか。「捜索すべき場所」(219条1項)の範囲が問題となる。

(1)令状主義の趣旨(憲法35条、刑訴法218条1項)は、重要な権利利益を制約する捜査については、令状裁判所の事前の司法審査を介することで捜査と人権の合理的調整を図った点にある。かかる趣旨からすれば、裁判官の司法審査が及んでいるといえる範囲に限り令状の効力が及ぶものと考える。そこで「捜索すべき場所」とは、捜索場所の権利利益に包摂されているもの、すなわち捜索場所に存在する管理権者が管理支配するものにまで及ぶ。

(2)本件アタッシュケースは捜索場所たるL銀行本店ビル9階の相談役室前の廊下で乙が持っていたものである。確かに、かかるアタッシュケースは乙の所有物でありプライバシーを侵害するように思われる。もっとも、かかるアタッシュケースは直前まで捜索差押許可状記載の捜索場所たるL銀行本店ビルの9階フロアに存在していたものと思われる。また、アタッシュケースとは、通常仕事で用いる書類等を入れて持ちあるくための鞄であり、本件秘書乙は特に書類等の管理を行うことを業務の一つとするのであるから、本件乙の鞄は通常L銀行本店ビルにおいて管理ないし利用されているものということができる。よって、本件アタッシュケースはL銀行の権利利益に包摂されているものといえる。

(3)以上より、Nらの上記行為は適法である。

4.Nが乙の右手からアタッシュケースをもぎとった行為及び施錠されていたアタッシュケースをドライバーでこじ開けた行為は「必要な処分」(222条1項、111条1項)といえるか。

(1) 本条の趣旨は、捜査に付随して目的を達成するために必要最小限度の強制力を行使することを許容する点にあるため、「必要な処分」とは捜索差押に①必要であり、かつ②相当な行為をいう。

(2)本件において、捜索場所に居合わせた乙が捜索中に本件アタッシュケースを持ってその場を立ち去ろうとしており、Nの「アタッシュケースの中を見せてもらえませんか」という問いかけに対して、乙は「大事な書類で、すぐに届けないと当社に損害が出てしまいます」などと言いながらなお立ち去ろうとしており、「開けてもらえますか」という問いかけに対して黙ったままであったというのだから、捜索場所にあった捜索の対象物を隠匿したと疑うに足りる十分な理由があるといえる。また、確かにアタッシュケースを力ずくでもぎ取る行為はやや強引であったと思われるものの、Nらは乙に対して暴行等を行ったわけではなく、アタッシュケースを乙が持ち出さないようにするために相当な手段であったといえるし、施錠されていたアタッシュケースをドライバーで開ける行為は相当であるといえる。

(3)以上より、上記行為は適法である。

5.Nらが乙の使用している机の引き出しの中を捜索した行為は適法か。                                                                                                                                       

(1)上記令状主義の趣旨に鑑みて、「捜索すべき場所」とは上記をいうところ、本件乙の机の引き出しは、捜索場所たるL銀行本店ビルに付属する物であるといえるから、本件乙の机の引き出しの中身もL銀行の権利利益に包摂されているものといえる。

(2)以上より、Nらの上記行為は適法である。

6.Nらが乙の使用している机の引き出しをドライバーを用いて鍵を開けた行為は「必要な処分」(222条1項、111条1項)にあたり適法か。

(1)「必要な処分」とは上記をいうところ、乙は本件机の引き出しを開けることを拒んでおり、捜索場所にあった捜索の対象物を隠匿したと疑うに足りる十分な理由があるといえる。また、本件机の引き出しをドライバーを用いて鍵を開けた行為は相当であるといえる。

(2)以上より、上記行為は適法である。

2.次に、上記捜索差押許可状により甲の手帳、パソコン、メモ等が差し押さえられている。 (1)この点、メモ等は差し押さえるべき物に含まれており問題ない。手帳も、甲の業務状況を示す証拠であるといえるから上記メモ等に含まれると考えることができ、本件被疑事実の関連する証拠であるといえる。

(2)もっとも、本件パソコンは被疑事実との関連性の審査なしに差し押さえられているところ、かかる差押えは違法とならないか。

ア.令状裁判官の意ならず捜査機関も被疑事実との関連性を判断すべきである。したがって、原則として捜査機関は被疑事実との関連性を確認したうえで差押をしなければならない。もっとも、電子データ記録媒体の場合、文書のような可視性・可読性がないうえ、大量の情報を記録でき、記録された情報の消去や加工も容易であるという性質があることから、差し押さえるべきものが文書である場合と異なり、捜索の現場で被疑事実との関連性を判断するのは容易ではない。そこで、当該電子データ記録媒体において、①被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、②その場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときには、例外的に、捜査機関が被疑事実との関連性を確認せずに差押えをすることが許容されるものと考える。

イ.本件では、被疑者甲のパソコンには被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が高いといえる。もっとも、本件においてはその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるといえる状況は見当たらない。

ウ.したがって、本件行為は違法であるといえる。

(3)もっとも、パソコンのような電磁的記録媒体の差押えは222条1項、110条の2によることができないか。

ア.本件「差し押さえるべき物」はパソコンという「電磁的記録に係る記録媒体」であるところ、令状執行者が当該記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体への複写・印刷・移転を行い、又は、差押えを受けるものに他の記録媒体への複写・印刷・移転を行わせたうえ、「当該他の電磁的記録」を差し押さえることができる。

イ.したがって、上記行為は不適切であり、Nらは222条1項、110条の2に従った手続きをするべきであったといえる。

  • 設問2について
  • 本件【融資稟議書】、【取締役会議事録】は「公判期日における供述に代えて書面」(以下伝聞証拠とするにあたり、証拠能力が否定されないか。そこで本件供述は伝聞証拠に当たるかが問題となる。
  • そもそも、320条1項により伝聞証拠が証拠能力を否定されている趣旨は、供述証拠は人の知覚、記憶、表現、叙述という過程を経るため、その各過程で誤りが生じる恐れが高いにも関わらず、宣誓(154条、規則116条~120条)、反対尋問、偽証罪による制裁、裁判所による観察という真実性の担保に欠ける点にある。とすれば、伝聞証拠とは①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②要証事実との関係で現供述の内容の真実性が問題となるものをいうと考える。
  • 本件において、本件立証趣旨は検察官の意見を総合して具体的に考えると「本件融資に関連する書面の存在・記載内容」であるといえる。かかる場合には内容が真実でなくても公訴事実を推認できるといえるので、非供述証拠となり、非伝聞となる。
  • 以上より、本件【融資稟議書】、【取締役会議事録】は証拠能力が認められる。

エクササイズ刑事訴訟法第9問強盗事件

  • 設問1について
  • N及びOの職務質問をするために甲乙に「ちょっといいですか」と声をかけた行為は適法か。
  • 職務質問は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者に対して行うことができる(警職法2条1項)。本件職務質問は強盗事件発生後わずか30分後に現場から2㎞というほど近く離れた路上で、被害者の述べた犯人の特徴と一致する黒のジャージ上下と白のジャージ上下の男2人組に対して行われている。さらに、N及びOが「ちょっといいですか」と声をかけたところ、黒いジャージの男は走って逃げようとした。かかる行動は異常な挙動と評価でき、犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるといえる。
  • 以上より、NおよびOの上記行為は適法である。
  • Nの逃走しようとした黒いジャージの男を追いかけ、数m先で肩をつかんで停止させた行為は適法か。
  • 警職法2条1項は前述の相当理由のある者を停止させて質問することができると定めている。「停止させて」という文言から一定の有形力の行使が予定されていると考えられるが、2条3項が身柄拘束を含む強制手段を禁じている。

 2条3項が禁止する強制手段は、「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り」行えないものであるため、その意義は刑訴法197条1項但書の「強制の処分」と同義であると解すべきである。すなわち、相手方の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加える処分を意味すると考える。また、1条2項により、停止のための有形力の行使は必要最小限度のものでなければならない。したがって、停止のための有形力の行使は身柄拘束に至らない程度で、強制にわたらない限り許容され、身柄拘束に至らない有形力の行使であっても状況のいかんを問わず常に許容されるものではなく、その必要性、緊急性、これにより害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ許容されることになる。

  • 本件において、Nは黒いジャージの男の肩をつかんだだけであるため、身体拘束に至っていない。また、職務質問の前提事情が存在する中で走って逃走しようとする者に対してとっさになされたものであるため、相手方の意思を制圧する行為であるとはいえない。また、黒いジャージの男は逃走しようとしているのであるから、これを停止させる必要性及び緊急性は高いといえる。これに対して、黒いジャージの男が被る不利益は、ごく短時間における身体への接触にとどまり、具体的状況のもとで相当であるといえる。
  • 以上より、Nの上記行為は適法である。
  • Oの乙の持つレジ袋の外側からレジ袋を触った行為は職務質問に伴う所持品検査として適法か。所持品検査については明文上規定がないため、その可否と要件が問題となる。

(1)所持品検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、職務質問に付随してこれを行うことができると解すべきである。また、任意手段である職務質問の付随行為として許容されるものであるため、所持人の承諾を得て行うことが原則となる。しかし、承諾のない場合であっても、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り許容され、捜索に至らない程度の行為であっても状況のいかんを問わず常に許容されるものではなく、その必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されると解すべきである。

(2)Oは白いレジ袋の口を右手に提げている乙に対し「中に何が入っているのですか」と尋ねたが乙は黙っており、Oが上から中を覗き込もうとしたところ、乙はレジ袋の口を握って後ろ手に持ち替えている。よって、乙はレジ袋の中身を確認することを承諾していなかったといえる。もっとも、Oはレジ袋の中身の確認を乙が拒否しているにもかかわらず、「ちょっと失礼します」と言いながらレジ袋の外側からレジ袋を触っているが、探索的な行為や破壊を伴う行為を行っているわけではないため、捜索には至っていない。

 2条3項により所持品検査において禁止される強制は、停止と同様、刑訴法197条1項但書の「強制の処分」と同義であるが、乙を羽交い締めにする等の行為を伴うものでもないため意思制圧は認められず、強制には当たらない。しかしながら、レジ袋を外側から触っているため捜索に類する行為ということができ、具体的状況のもとで相当といえるかが問題となる。

 本問の職務質問は、上記犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある甲乙に対して行われたものであり、また、所持品検査も任意の提出を拒む乙に対して行われたものである。このような現場の状況や態度から、乙が本件強盗事件に関与している嫌疑が存在し、所持する物品が強盗に用いられたカッターナイフ等であれば廃棄されてしまうおそれがあるから所持品検査の必要性と緊急性が認められる。態様もレジ袋を外側から触るというプライバシー侵害の程度の低いものであり相当といえる。

(3)以上より、上記所持品検査は適法である。

4.N及びOの刑事訴訟法(以下略)212条2項に基づく甲乙の準現行犯逮捕は適法か。

(1)逮捕を行なうためには原則として令状が必要となる(憲法33条、刑訴法199条)。その趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対して、現行犯逮捕の場合には、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから誤認逮捕のおそれが低く、他方で犯人逮捕の必要性も高いことから、令状主義の例外として無令状で行うことが許される。準現行犯逮捕も現行犯逮捕の一種として無令状で行うことが許される。それは、犯行から時間が若干経過した後であって、逮捕者が犯行を現認していることはないが、現認した場合と同様に扱うことができるほど犯罪と犯人の明白性が認められる場合であって、誤認逮捕のおそれが少ないと認められるからである。したがって、準現行犯逮捕が適法とされるためには、①212条2項各号のいずれかひとつに当たること、②犯罪と逮捕行為の時間的接着性とその明白性、③犯罪と犯人の明白性、④逮捕の必要性が必要となる。

 準現行犯逮捕は、犯罪と逮捕行為との間の時間的接着性の要件を緩和する一方で、犯罪と犯人の明白性を客観的に担保するため、各号の事由の充足を要求する。したがって、各号の事由については、逮捕者が直接覚知することが必要である。

(2)乙については、所持していたレジ袋を外から触ると髪のような感覚の中に、硬い金属様の感触があったことから、犯罪を組成したものを所持しているといえるから2号該当性が認められる。甲については、N及びOに声をかけられると走って逃走しようとしたことから「誰何されて逃走しようとするとき」にあたり4号該当性がある(①充足)。

 本件逮捕は、事件発生からわずか約50分後に、現場から約2㎞という近接した場所において行われており、時間的・場所的接着性があるといえる(②充足)。

 犯罪と犯人の明白性については、上記各号事由該当性及び時間的・場所的接着性に加え、甲乙が被害者の述べた犯人の特徴と一致する黒のジャージ上下と白のジャージ上下の男2人組であり、白いジャージ上下の乙は長髪であったこと、逃走方向も東で合致していたこと、甲が2人で強盗をしたことを認めたこと、乙がレジ袋の中身をのぞかれないような行動をとったことなどから、総合考慮し、「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき」といえる(③充足)。

(3)本件被疑事実は死刑となることもありうる強盗事件という重大犯罪であり、上記のように犯罪の犯人の明白性が認められている以上、逮捕の必要性があるといえる(④充足)。

(4)以上より、本件準現行犯逮捕は適法である。

  • 設問2について

1.本件甲の供述調書及び録音・録画記録媒体たるDVDは「公判期日における供述に代えて書面」(以下伝聞証拠とする)にあたり、証拠能力が否定されないか。そこで本件供述は伝聞証拠に当たるかが問題となる。

(1)そもそも、320条1項により伝聞証拠が証拠能力を否定されている趣旨は、供述証拠は人の知覚、記憶、表現、叙述という過程を経るため、その各過程で誤りが生じる恐れが高いにも関わらず、宣誓(154条、規則116条~120条)、反対尋問、偽証罪による制裁、裁判所による観察という真実性の担保に欠ける点にある。とすれば、伝聞証拠とは①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②要証事実との関係で現供述の内容の真実性が問題となるものをいうと考える。

(2)本件甲の供述は公判廷外の供述であり①を満たす。本件立証趣旨は、「乙と共に犯行に及んだこと」、つまり事前共謀及び共同実行事実等と考えられ、現供述内容の真実性が問題となるから②を満たす。したがって、これらは伝聞証拠に当たる。

2.もっとも、法は証拠とすべき必要性と、信用性の情況的保障が認められる場合には、伝聞証拠であっても例外的に証拠能力を認めている(伝聞例外、321条以下)。そこで、本件供述証拠及び録音・録画記録媒体たるDVDも伝聞例外として証拠能力が認められないか。まず、本件供述調書は「検察官の面前における供述を録取した書面」にあたるので、321条1項2号の要件を満たすか、以下検討する。

(1)ア.321条1項2号後段の「前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述」とは、それ自体又は他の証拠と相まって要証事実との関係で異なった認定を導くものをいうと考える。

イ.本件において、乙の公判廷における甲の供述は、事前共謀の存在や乙の犯行への関与が要証事実となると考えられる。この点、甲の検察官の面前における供述調書はこの点につき詳細な供述がなされており、同供述から要証事実を優に認定し得る。これに対し、乙の公判廷での甲の供述は「事件のことはよく覚えていない」「共犯者のことは言いたくない」「乙が逮捕直前に自分と会ったと言っているなら、そうだったかもしれない」などというもので、同供述では要証事実を認定することは困難であることから、両供述は異なった認定を導くものといえ、「前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述」にあたる。

(2)それでは、「信用すべき特別の状況」(321条1項2号但書)があるといえるか。

ア.そもそも、特信情況は、証拠能力を与えるための要件であって、公判廷における供述と前の供述とのいずれの証明力が高いかという証拠価値の比較の問題ではない。そのため、特信情況の有無については供述の内容の信用性の比較に求めるのではなく、当該供述のなされた際の外部的付随事情を基準として判断すべきと考える。もっとも、供述内容自体も外部的付随事情の存在を推測させる資料の1つとして考慮することはできるものと考える。

イ.本件において、乙は甲の中学時代の先輩であり、暴力団関係者であるため、甲が乙の公判廷において、心理的圧迫から乙に対して不利益な供述をすることが困難な状況が認められるといえる。よって、公判供述の信用性を低下させるような外部的付随事情があったといえる。また、甲の公判供述の内容をみても、「事件のことはよく覚えていない」「共犯者のことは言いたくない」「乙が逮捕直前に自分と会ったと言っているなら、そうだったかもしれない」などと乙の供述に合わせるような姿勢が見えるなど不自然・不合理なもので乙からの心理的圧迫があったと推認でき、信用性が低いといえる。これに対して、甲の検察官の面前における本件供述調書の内容は、逮捕時における供述とも一致し、具体的で、乙の公判廷における供述にみられるような心理的圧迫を受ける情況にもなく、相対的に特信情況が認められる。

(3)以上より、甲の本件供述調書につき、321条1項2号後段より証拠能力が認められる。

4.次に、録音・録画記録媒体たるDVDは伝聞例外として証拠能力が認められるか。

(1)この点、321条以下の伝聞例外規定は、主に供述書・供述録取書を想定しているものと考えられるが、録音・録画記録媒体についても、被疑者等の供述を録取したという点で同様であり、むしろ機械的に録音・録画されている点において供述書・供述録取書よりも正確性が高く認められるから、信用性は高いといえる。したがって、書面につき伝聞例外該当性が認められる場合、録音・録画記録媒体についても伝聞例外として証拠能力が認められる。

(2)以上より、本件録音・録画記憶媒体たるDVDは証拠能力が認められる。

エクササイズ刑事訴訟法第8問詐欺事件②

  • 設問1について
  • M及びPはNの接見を申し込んだNに対し、直ちに接見をすることはできない旨述べた上、接見を指定している。そもそも接見指定は認められるか。
  • 接見交通権(刑事訴訟法(以下略)39条1項)とは、身柄の拘束を受けている被疑者・被告人が、立会人なしに弁護人と面会し、書類等の授受を行うことができる権利をいう。

憲法34条前段は被疑者の弁護人選任権を保障しているところ、これは単に弁護人を選任することを妨げられないというだけではなく、被疑者に対し弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障したものである。そして刑訴法39条1項はかかる憲法34条前段の趣旨にのっとり設けられたもので、その意味で憲法34条前段に由来するものということができる。

そうであるとすれば、そのような重要な権利の制限は限定的に解すべきであり、39条3項の接見指定は、被疑者の身柄拘束期間に厳格な制限があることに鑑み、1つしかない被疑者の身体を現に必要としている場合に調整を図る趣旨と考えるべきである。

したがって、「捜査のため必要があるとき」とは、捜査の中断等により操作に顕著な支障が生じる場合をいうと考えられる。例えば、現に被疑者を取調中である場合や実況見分、検証に立ち会わせている場合、また間近いときに右取調等をする確実な予定があって、弁護人の申し出通りの接見を認めたのでは取調等が予定通り開始できなくなるおそれがある場合などは原則としてこれにあたると考える。

  • 本件において、Nが訪れたのは実際に弁解録取中又は弁解録取開始直前のことであり、原則として捜査に顕著な支障が生じるおそれがあるといえる。
  • もっとも、本件において、Nは逮捕後一度も接見しておらず、本件の接見が逮捕後の初回接見である。それにもかかわらず、接見指定したM及びPの行為は、「被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限する(39条3項但書)ものにあたり、違法とならないか。
  • そもそも、弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取り調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、弁護人依頼権を定めた憲法34前段の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。そこで、捜査機関は接見指定の要件が具備された場合でも、指定にあたっては、弁護人となろうとする者と協議して、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能であるかどうかを検討し、これが可能なときは、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、たとえ比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきと考えるべきである。
  • 本件において、Nが求めたのは初回接見であり、重要なものであったといえる。

ここで、まずMの指定内容についてみるに、弁解録取の手続き及びそれに引き続く指紋、採取手続き、身上経歴についての取調べ、そして逮捕事実の概要についての取調べについては、いずれも必要性が認められるものである。しかし、上記初回接見の重要性に鑑みると、これらの手続きの合間に短時間でも接見の時間を確保できないか、Nと協議することはできたといえる。したがって、Mの接見指定は午後4時と指定した点において違法と解される。

次に、Pの指定内容をみるに、検察官及び裁判官の弁解録取・勾留質問は法定された不可欠の手続きであるし、庁舎内に立会人なしに接見できる設備がないことは接見を拒む理由として妥当であるといえる。もっとも、弁護人において検察事務官や押送短答警察官の立会いの下短時間接見すること(いわゆる面会接見)を求める場合もありうる。かかる場合においても、上記初回接見の重要性に鑑み、Nと協議することはできたと考えられ、協議なしに午後6時と指定した点において不適切であったといえる。

  • 設問2について
  • 「自白」(319条1項)とは、事故の犯罪事実の全部または主要部分を肯定する被告人の供述を言うところ、甲はMらからの内妻に会わせる旨の約束等を受けて被疑事実を認め、さらに乙の関与と犯行メモ等の在処について自白している。

かかる自白は「その他任意にされたものでない疑いのある自白」(憲法38条2項、319条1項)とは言えないか。

(1)そもそも、自白法則(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の趣旨は、類型的に虚偽の自白が誘発されるおそれのある状況下でなされた自白について証明力の評価を誤るおそれがあるため、一律にその証拠能力を否定して、誤判防止を図った点にある。そうだとすれば、「その他任意にされたものでない疑いのある自白」に当たるか否かは、①類型的に虚偽の自白を誘発するような状況があったか、②かかる状況と自白に因果性が認められるか否かで判断する。

(2)まず、Mらは甲に対して「接見禁止中だが、内妻に会わせてやってもよいぞ」と約束している。警察官は接見禁止の権限を有していない(207条1項、81条)が、被疑者は通常法的な知識を有しておらず、このように直接的に申し向けられたら警察官も一定の権限を有すると思い込むのが自然である。被疑者にとって重要な家族等との接見をすることは重大な利益であるといえるから、虚偽であるが自白して接見を受けたいとの心理状態になることが自然である。したがって、類型的に虚偽の自白を誘発する恐れがある状況といえる(①充足)。また、甲はMらの取り調べにおいて乙の関与については否認し続けてしたのにこの約束によって、内妻に会いたいという気持ちから突如として自白に転じたのであるから、かかる状況の影響を受けて自白がなされたと推認できる(②充足)。

 次に、Mらは甲に対して「乙に任意で話を聞いたら、『甲に脅されて無理やりやった』と言っているぞ」などと乙の供述内容について虚偽を述べている。この点、真実は未だ乙の聴取は未実施であったというのであるから客観的に虚偽であるうえ、甲に対し、乙にとって不利益な内容の供述をするよう仕向けるものといえる。共犯者が自白をしたと知れば、共犯者に裏切られたと感じて、虚偽であるがかかる共犯者にとって不利益な供述をしようとの信条になることが考えられる。したがって、類型的に虚偽の自白を誘発する恐れがある状況といえる(①充足)。実際に、甲はMらの取り調べにおいて乙の関与については否認し続けてしたのに、兄貴分に当たる乙から裏切られたという思いから、突如として乙から指示されたという内容の自白に転じたのであるから、かかる状況の影響を受けて自白がなされたと推認できる(②充足)。

(3)以上より、かかる自白は「その他任意にされたものでない疑いのある自白」(憲法38条2項、319条1項)にあたり、証拠能力が認められない。

  • 設問3について
  • 本件甲方から発見された犯行メモと現金100万円は上記証拠能力が認められない自白からの派生証拠である。もっとも、派生証拠自体は虚偽のおそれはないし、上記約束自白・偽計自白は自白の動機に影響を与えているものの、供述の自由を侵害しているわけではないので、自白法則から排除することはできない。
  • そこで、違法収集証拠により排除できないか。
  • そもそも、違法収集証拠排除法則の根拠は、司法の廉潔性、適正手続の保障(憲法31参照)、将来の違法捜査抑止という点にあるが、違法に収集された証拠を排除するだけで、その証拠によって得られた派生証拠を排除しないとすると、このような根拠を貫徹することができず、違法収集証拠排除法則の実効性を欠くことになるといえる。そこで、第1次的証拠の違法の程度、収集された第2次的証拠の重要性・事件の重大性、第1次的証拠と第2次的証拠の関連性の程度、捜査機関の意図等を考慮し、排除することが相当と認められる場合には、派生証拠の証拠能力は認められないものと考える。
  • 本件自白は約束と偽計の併用という自白獲得手段として著しく不当なものによってなされており、重大な違法であるといえる。また、本件被疑事実は詐欺事件という現金を詐取された被害者の存在する重大犯罪である。加えて、本件犯行メモ及び現金100万円と上記自白との間には強い関連性が認められる。
  • 以上より、派生証拠たる犯行メモと現金100万円は証拠能力を否定される。