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答案をアップしていきます #司法試験

刑法事例演習教材3ヒモ生活の果てに

第1.甲の罪責

1.甲の人Bの身体たる顔や手足を手拳や平手で週数度叩く行為につき、人の身体に対する不法な有形力行使であり「暴行」にあたることから暴行罪(刑法(以下略)208条)が成立する。

2.甲の、Bの頭部右側を手拳あるいは裏拳で断続的に5回にわたり殴打した行為につき、傷害致死罪(205条)が成立しないか。

(1)結果的加重犯は基本犯の構成要件を充たせば成立する。傷害には暴行の結果的加重犯も含まれる。本件殴打行為は、人Bの身体たる頭部に対する殴打という不法な有形力行使であり「暴行」にあたる。そして、本件で、Bの死亡結果が生じている。

(2)もっとも、本件では、上記暴行後、Bを病院に連れて行かないという不作為が介在している。因果関係は認められるか。

ア.因果関係は条件関係を前提に、実行行為の持つ結果発生の危険性が結果へと現実化した場合に認められる。

イ.本件実行行為は、Bの脳などのデリケートな臓器を有する頭部を手拳あるいは裏拳で断続的に5回という多数に渡り殴打する行為であり、Bが硬膜下出血、くも膜下出血等の障害により死亡する現実的危険性を有していた。そして、実際にBは硬膜下出血、くも膜下出血等の障害により死亡している。不作為行為が介在しているが、本件実行行為により死因が形成されている以上、かかる不作為はBの死亡時期を早めたに過ぎないといえる。したがって、実行行為の持つB死亡結果発生の危険が現実化したといえ、因果関係が認められる。

(3)故意(38条1項本文)とは、客観的構成要件該当事実の認識認容をいうところ、甲は上記客観的構成要件該当事実につき認識しており故意がある。

(4)以上より、上記行為につき傷害致死罪が成立する。

2.甲の、Bを病院に連れて行かなかった不作為につき殺人罪(199条)が成立しないか。199条は「人を殺した」と規定し、不作為による殺人を想定していないが、不作為であっても殺人罪の実行行為が認められるか。

(1)不作為であっても、死亡結果を発生させることができる以上は、殺人罪の実行行為性が認められると考える。もっとも、いかなる不作為にも実行行為性が認められるとするのは妥当でない。そこで、①作為義務があり、②作為が可能かつ容易であった場合には不作為の実行行為性が認められると考える。

(2)甲は、Bの母親であり、Bに対する監護義務を負っていた。また、同居する乙にBを病院に連れて行ったほうがいいのではないかと言われると、「Bはちょっと気を失っただけだから大丈夫」、「私にまかせておいて」などと発言しており、先行行為及び保護の引き受けも認められる。したがって、作為義務があったといえる(①充足)。また、甲は、Bを病院に連れて行くか、救急車を呼ぶだけでよかったのであり、通信機器が広く普及している現在においては、甲は自身のスマートフォン等で119番通報することは可能であったし、数秒でできるほどに容易であったといえる。よって、作為は可能かつ容易といえる(②充足)。よって、本件不作為に実行行為性が認められる。

 そして、本件でB死亡結果が生じている。

(3)不作為の因果関係は、期待された作為を行っていれば結果発生を回避できたことが合理的疑いを超える程度に確実であった場合に認められる。

 本件で、甲がBへの傷害からすぐに病院に連れて行って治療を受けさせていれば、あbの救命は確実であったというのだから、甲が上記作為を行っていれば、B死亡結果発生を回避することは合理的疑いを超える程度に確実であったといえ、因果関係が認められる。

(4)故意とは上記をいい、甲はBを病院に連れて行って治療が受けさせなければBの命が危ないと思ったというのであるから、上記客観的構成要件該当事実を認識している。また、甲はBが上記暴行により意識を失った後、このままBが死亡してしまえば、乙との関係もうまくいくと考えており、未必の殺意があったといえる。よって、故意も認められる。

(5)以上より、上記不作為につき殺人罪が成立する。

3.以上より、甲の行為につき、暴行罪、傷害致死罪、殺人罪が成立する。

第2.乙の罪責について

1.乙の、Bを病院に連れて行かないことに同意し、自分の部屋に行ってBを放っておいた不作為につき殺人罪が成立しないか。

(1)不作為の実行行為性につき上記規範に従い検討する。

 乙は、甲と、Bに対して監護義務を負っているため、作為義務が認められる(①充足)。また、甲と同様に乙もスマートフォンなどで119番通報することは可能かつ容易であった。さらに、甲乙の住居から車で10分程度の場所に総合病院があり、乙の車でBを連れて行くことができたし、容易であったといえる。よって、作為の可能性容易性が認められる(②充足)。よって、本件不作為に実行行為性が認められる。

 そして、本件でB死亡結果が生じている。

(2)不作為の因果関係は上記をいう。上記の通り、傷害後すぐBを病院に連れて行っていれば、Bの救命は確実で会ったのであるから、乙が車でBを病院に連れて行くか、119番通報していればB死亡結果を回避することが合理的疑いを超える程度に確実であったといえ、因果関係が認められる。

(3)乙は、Bは死ぬほどの状態ではないだろうと思っていたが、故意が認められるか。

 故意とは上記をいう。乙は上記客観的構成要件該当事実につき認識しており故意がある。

(4)以上より、上記行為につき

第3.関連設例

1.設問記載の場合に、甲乙不作為とB死亡結果との間に因果関係は認められるか。

(1)不作為の因果関係は上記である。本件で、甲乙が期待された作為を行っていれば、Bの救命は相当程度可能であったが、十中八九確実であったとまではいえない。よって、作為を行っていれば、B死亡結果回避が合理的疑いを超える程度に確実とまではいえないから因果関係が認められない。

(2)以上より、かかるばあいには甲乙の不作為に殺人罪は成立しない。

以上

00:40:51.237

 

コメント

1.いらない?

2.監護義務→民法818条1項、820条

4歳への暴行が先行行為

傷害致死罪及び殺人罪が成立し、前者は後者に吸収される(包括一罪)

1.傷害致死幇助罪

乙が言い出して乙甲Bで同棲していた

乙が言えば甲はBへの暴行をやめた可能性が高い

保護責任者遺棄致死幇助罪

傷害致死幇助罪及び保護責任者遺棄致死罪が成立し、前者は後者に吸収される

 

 

 

 

 

 

 

 

刑法事例演習教材1ボンネット上の酔っぱらい

1.甲の、Aの顔面を手拳で軽く1回殴打した行為につき暴行罪(刑法(以下略)208条)が成立しないか。

(1)「暴行」とは人の身体に対する不法な有形力の行使をいうところ、甲は、人Aの身体たる顔面を手拳で殴打するという不法な有形力行使をおこなっているから「暴行」がある。

(2)故意(38条1項本文)客観的構成要件該当事実の認識認容をいうところ、甲は上記暴行につき認識しており故意がある。よって、上記行為につき暴行罪が成立する。

(3)もっとも、甲は、Aが甲の胸ぐらを摑もうとした行為に対する防衛行為として上記行為に及んでいるところ、正当防衛(36条1項本文)が成立し、違法性阻却されないか。

ア.「急迫」とは、法益侵害が現に存在し又は間近に差し迫っていることをいう。Aは甲の車の窓から手を入れ、甲の胸ぐらを摑もうとしているから、甲の身体に対する侵害が現に存在するといえ、急迫性は認められる。

 「不正」とは違法な行為をいうところ、胸ぐらを摑む行為は不法な有形力行使たる暴行といえ、違法であるから「不法」といえる。

イ.防衛意思とは急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする意思をいう。甲は、上記急迫不正の侵害を認識し、これを避けるためにAの手を払いのけて上記行為に及んでいるから防衛意思も認められる。

ウ.「やむを得ずにした」とは、防衛行為が必要最小限度であったことをいい、具体的には攻撃行為に比して防衛行為の相当性が認められる場合をいう。

 本件攻撃行為は、酔った36歳男性Aが車の窓越しに甲の胸ぐらを摑む行為であった。これに対して甲は、確かに軽く、1回のみの行為であったが、かかるAの手を払いのけたうえで、脳などデリケートな臓器を含む頭部にある顔面を手拳で殴打している。よって、攻撃行為に比して相当とはいえない。

(4)したがって、甲の行為には過剰防衛(36条2項)が成立し、上記暴行罪は情状により刑を減免されうる。

2.甲の、車を発進させBを転倒させた行為につき傷害罪(204条)が成立しないか。

(1)結果的加重犯の構成要件は基本犯が認められれば満たす。傷害には暴行の結果的加重犯も含まれる。「暴行」とは上記をいう。本件行為は、Bの体から約1メートルという近距離に車を進行させる行為であり、人Bの身体に対する不法な有形力の行使といえる。そして、Bは全治一週間の打撲傷という傷害結果を負っている。

(2)因果関係は条件関係を前提に、実行行為の持つ現実的危険性が結果へと現実化した場合に認められる。

 Bの体から約1メートル離れた地点に車を進行させる行為は、少し運転操作を誤ればBに傷害を負わせる危険性があり、仮にBが生命身体の危険を感じ避けたとしてもバランスを崩して倒れて傷害を負う危険性がある。本件でBはあわてて身を避けようとして転倒し、上記傷害結果を負っている。よって、実行行為の持つB傷害結果発生の危険性が現実化したといえ、因果関係が認められる。

(3)故意とは上記を言い、甲は上記客観的構成要件該当事実につき認識しているから故意がある。

(4)もっとも、正当防衛により違法性阻却されない

ア.「急迫」とは上記をいう。本件で甲の車をBが運転する車が追いかけてきており、Aが棒切れ様の物を手にして「こいつや、こいつや」などと言いながら甲の車に近づくとBもAの後ろから甲に近づいてきている。さらに、甲が車を発進させて逃げようとするとAがボンネットに飛び乗り、Bは甲の車の前方5メートルの道路中央部分に立っていた。かかる状況においては、A及びBによって、甲の生命身体に対する侵害が間近に押し迫っていたといえ、急迫性は認められる。ABが、甲を棒切れ様の物等で殴打等をする行為は、不法な有形力行使たる暴行で違法なので「不正」といえる。

イ.防衛意思とは上記をいう。甲は、車を発進させないでいるとAおよびBから危害を加えられると考え上記行為に及んでいることから、上記急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする心理状態にあったといえ、防衛意思もある。

ウ.「やむを得ずにした」とは上記をいう。本件攻撃行為は、上記Aが棒切れ様の物を手に持ち近づいてきて、さらに甲の車のボンネットに乗り、Bは前方から近づいてきており、Bの車の窓を割り、甲に暴行を加える行為へと発展するおそれのある行為であった。これに対して甲は、確かにBの体から約1メートル離れた地点に車を進行させているが、道路にBの体を避けて車を進行するのに十分なだけの幅がある道路で、単に車を発進させる行為をおこなっている。よって、行為の相当性が認められる。

(5)以上より、正当防衛が成立し、違法性阻却される。

3.甲の、急ブレーキをかけてボンネット上からAを振り落とした行為につき傷害罪(204条)が成立しないか。

(1)2.(1)と同様に考えて「暴行」とは上記をいう。急ブレーキをかけてボンネット上からAを振り下ろす行為は人Aの身体に対する不法な有形力の行使といえ「暴行」にあたる。これに「よって」、Aは頭部外傷などの障害結果を負っている。

(2)故意とは上記をいうところ、甲は上記客観的構成要件該当事実につき認識しており故意がある。

(3)もっとも、係る行為は正当防衛により違法性阻却されないか。

ア.「急迫」とは上記をいう。Aは甲の車のボンネット部分にしがみついており、甲が発車させなければ、フロントガラスをたたき割って甲に暴行を加えるおそれがあった。よって、甲の生命身体に対する侵害が間近に押し迫っているといえ急迫性が認められる。

イ.防衛意思とは上記をいう。甲はAをボンネット上から振り落として逃げようと考えており、上記急迫不正の侵害を認識きつつこれを避けようとする心理状態であったといえるから防衛意思も認められる。

ウ.「やむを得ずにした」とは上記をいう。攻撃行為は、Aがボンネット上にしがみつく行為であるのに対し、防衛行為は甲が時速70キロメートルという早い速度で、交通量の多い国道上を疾走しつつ、急ブレーキを何度もかけたり蛇行運転をするなど危険な運転をしながら、約2.5キロメートルという長い距離にわたって走行し、Aをボンネット上からAを振り落として路上に転落させている。かかる行為は、Aが硬い道路に頭などを打ち付けて死傷したり、後続車両にはねられて死傷するおそれのある危険性の高い行為である。よって、行為の相当性が認められない。

(4)以上より、過剰防衛(36条2項)が成立し、上記傷害罪は情状により刑が減免されうる。

以上
00:48:57.721

 

感想

1.は正当防衛肯定?

2.は暴行に身体的接触は不要であることも書けるとよかった

誘発

ラクション3回鳴らされただけで激怒する暴力的な性格

報復をうかがわせる発言

棒切れ様の物で暴行を加える可能性が高い

誤字B→Aが

2対1で甲は数的不利

衝突もなかった

3.殺人未遂罪

侵害の継続

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧司平成18年度第1問憲法

第1.原告の主張

1.Xとしては、本件法律は放送事業者の広告放送を行う自由(憲法21条1項)を制限し違憲であると主張する。

(1)憲法21条1項は一切の表現の自由を保障している。その保障根拠は、人々が様々な表現に接することで自己の人格を形成発展させ、自己統治に資するからである。

 この点、営利的表現は多様な情報の流通を確保し、受け手の知る自由に資するものである以上、憲法21条1項の保障を受けるものと考える。

 よって、本件放送事業者の広告放送を行う自由は、営利的表現の自由といえ、視聴者の知る自由に資するから憲法21条1項により保障される。

(2)本件法律は、午後6時から同11時までの時間帯における広告放送を1時間ごとに5分以内に制限している。これにより放送事業者はかかる時間において自由に広告放送を行うことができなくなっているから制約がある。

(3)上記の通り、本件自由は視聴者の知る自由に資するから重要な権利といえる。また、本件制限は広告放送という内容に着目した規制であり、思想の自由市場がゆがめられるおそれがある。また、本件制限に違反した場合には放送事業者の放送免許を取り消すという罰則規定もある。よって、制約の強度は強い。

(4)したがって、本件法律は、目的が必要不可欠で。手段が目的との関連で必要最小限度でない限り違憲と考える。

 本件法律が制定されたのは、午後6時から同11時までの時間帯における広告放送時間の拡大が多様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスを阻害する効果を及ぼしているとの理由からであった。現代社会ではインターネットで放送番組へのアクセスは容易であることから、係る目的は必要不可欠と言えない。

 仮に目的が必要不可欠だとしても、本件手段は上記時間帯の広告放送を制限するものである。かかる制限により、放送事業者は広告放送よる収入が減少し、放送番組制作に欠ける予算を削減しなければならない状況に追い込まれ得るのであるから、上記目的の前提となる質の高い放送番組の作成ができなくなってしまう。また、制限に違反した場合に放送免許の取消と言う厳罰を課さなくても、罰金等より制限的でない手段によることができると考える。よって、上記目的との関係で必要最小限度といえない。

(5)以上より、本件法律は憲法21条1項に反し違憲である。

第2.被告の反論及び私見

1.被告としては、以下のように反論し得る。

(1)まず、営利的表現の自由は、民主主義的過程を経ず、自己統治に資する性質のものではないし、営利目的に支配された言論は個人の自己実現をむしろ阻害する恐れもあることから、営業の自由による保障を受けるにすぎない。よって、本件自由も21条1項の保障を受けない。

(2)仮に保障されるとしても、上記時間帯において1時間ごとに5分以内の広告放送は認められているのだから、広告放送を行う自由は制約されていない。

(3)仮に制約がある場合でも、営利的表現の自由自己実現に資するのでなく政治的表現の自由等に比して権利の重要性は認められない。また、本件制約は、午後6時から同11時までの時間帯にえる広告放送時間の拡大を受けたものであるから、内容よりも時間に着目した規制である。よって、制約の態様は弱い。

(4)したがって、目的が正当で手段が目的との関係で合理的関連性を有すれば合憲と考える。

 本件目的は、多様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスの保護であるところ、係る目的は違法でなく正当である。

 本件手段は、上記のとおり広告放送時間が拡大していた時間帯における広告放送を制限することであり、これにより、視聴者は放送番組へアクセスする時間が多くなるから、上記目的との関係で合理的関連性を有する。

(5)以上より、本件法律は憲法21条1項に反せず合憲である。

2.以下、私見を述べる。

(1)確かに、営利的表現は民主主義過程を経ず自己実現に資するものではない。しかし、営利的表現は情報流通の確保により受け手の知る自由に資する物である以上は、憲法21条1項の保障を受けると考える。よって、本件自由も憲法21条1項より保障される。

(2)確かに、午後6時から同11時までの時間帯における広告放送を1時間ごとに5分以内に制限しても、その範囲では広告放送が認められている。しかし、係る制限により放送事業者は広告収入が減少し、事業継続が困難となり得る。また、かかる制限に違反した場合に放送事業者の放送免許の取消という重罰が課されている。よって、制約は認められると考える。

(3)上記営利的表現の自由の性質に鑑みて、権利の重要性はさほど高くないと考える。制約についても、本件規制は一見広告放送という内容に着目した規制に見えるが、上記時間帯における広告放送時間の拡大を受けて設定された規制である以上、時間に着目した規制と言え、内容中立規制であるから制約の態様はさほど強くないと考える。

(4)本件法律が制定されたのは、午後6時から同11時までの時間帯における広告放送時間の拡大が多様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスを阻害する効果を及ぼしているとの理由からであった。よって、本件目的は視聴者の上記時間帯の放送番組へのアクセスを保護する点にあると考えられる。確かに、上記時間帯の放送番組というのは、政治的表現を行う場であることが多いところ、政治的表現は自己の考えを形成し、自己実現に資する表現であり重要とも思える。しかし、本件目的は上記時間帯における放送番組は質が高いことを前提としているが、その根拠は明確でなく、国会の放送への恣意的な介入によって表現市場を歪めるおそれのある目的である。よって、重要とはいえない。

 仮に目的が重要だとしても、本件手段は上記時間帯の広告放送を制限するものである。しかし、現代社会においては、インターネットを用いて質の高い放送番組を後から見返すことができるから、かかる手段によらなくても、質の高い放送番組へのアクセスは確保できているといえる。加えて、かかる制限により、放送事業者は広告放送よる収入が減少し、放送番組制作に欠ける予算を削減しなければならない状況に追い込まれ得るのであるから、上記目的の前提となる質の高い放送番組の作成ができなくなってしまう。よって、上記目的との関係で実質的関連性も認められない。

(5)以上より、本件法律は憲法21条1項に反し違憲である。

以上

01:00:56.231

 

 

旧司平成11年度第2問民訴

第1.前提

1.前提として、本件訴訟物はどの範囲か。

(1)処分権主義(民事訴訟法(以下略)246条参照)の趣旨は、審判対象の確定を当事者に委ねることで当事者意思を尊重する点にあり、この趣旨から一部請求は問題なく認められる。また、訴訟物の範囲については、かかる趣旨及び不意打ち防止の機能から、一部請求であることが明示されていれば不意打ちとならないことから、明示された一部の範囲で訴訟物となる。

(2)本件で、甲は一部請求であることを明示して1000万円の支払いを求めていることから、訴訟物は1000万円の範囲で認められる。

第2,設問1

1.当事者は過失相殺をすべきであるとの主張をしていないが、裁判所が過失相殺を認定することは弁論主義に反しないか。

(1)過失相殺の制度趣旨は損害の公平な分担であるところ、過失相殺の権利主張まで要求することは、損害の公平な分担の硬直化をきたしうるため妥当でない。そのため、私的自治の訴訟的反映を趣旨とする弁論主義は適用されないように思える。もっとも、損害賠償額の減少という権利義務への影響を伴うことに鑑みれば、弁論主義の下一定の不意打ち防止は全うしなければならない。よって、過失相殺に権利主張までは必要でない。しかし、裁判所の主張していない事実を判決の基礎とできないという弁論主義第1テーゼより、過失につき事実主張を要し、その範囲で弁論主義が適用される。

(2)本件で、乙は、甲の行為が損害の発生につながったとの主張をしており、過失を認定するための事実を主張している。よって、この範囲で弁論主義が適用される。もっとも、弁論主義は主要事実につき適用されるところ、過失における主要事実とは何か。

ア.過失のような規範的要件であっても、具体的事実によって構成されている。そのため、規範的要件における主要事実は、その要件を基礎づける具体的事実をいうと考える。

イ.乙の、甲の行為が損害の発生につながったとの主張は、過失を基礎づける具体的事実といえるから、主要事実であり、弁論主義が適用される。

(3)よって、裁判所は、甲4割、乙6割の過失割合で過失相殺を認定することが認められる。

2.もっとも、本件請求は一部請求であるが、過失相殺はどの範囲を基準にして行うべきか。

(1)損害額全体を基準として相殺すべきである(外側説)。これにより、原告が残部を期待して請求することを防ぐことができる。

(2)本件では、損害額全体の1500万円を基準に本件過失相殺を行い、乙は甲に900万円を支払えと判決できると考える。

3.もっとも、本件で甲は1000万円の支払いを求めているのに900万円の支払いを求める判決をすることは、「申し立てていない事項」(246条)についての判決にあたらないか。

(1)246条の不意打ち防止の機能から、一部認容判決は①原告の合理的意思に合致し、②被告の不意打ちとならない場合には認められる。

(2)本件で、甲としては、請求が全部棄却されるよりは900万円でも認容判決を得た方が利益となるから、原告の合理的意思に合致する(①充足)。また、被告は1000万円の支払いを覚悟していたのであるから、より少額の900万円の支払いを求めても不意打ちとならない(②充足)。よって、246条に反しない。

(3)以上より、裁判所は、900万円の支払いを求める判決をすべきである。

第3.設問2

1,乙は甲の過失に関するいかなる主張もしていないのに、過失相殺を認定することは弁論主義に反しないか。

(1)設問1で述べた通り、弁論主義第1テーゼより、過失につき事実主張を要し、その範囲で弁論主義が適用される。

(2)本件では、過失につき事実主張がない以上、過失を認定すれば当事者の不意打ちとなり、弁論主義に反する。

(3)以上より、裁判所は過失相殺を認定することができず、甲の請求を全部認容判決すべきである。

以上

00:31:19.937

 

+法的観点私的義務

 

 

 

旧司昭和60年度第1問憲法

第1.設問1

1.Xとしては、外国からの輸入を規制しその生産物の価格の安定を図る法律(以下、本件法律)はXのような者のその生産物を原料として商品を製造する自由(憲法22条1項)を侵害し違憲であると主張する。

(1)「職業」とは、自己の生計維持のための継続的活動及び分業社会における社会的機能分担の活動であって、人格的価値と不可分である。

 Xのような者は、輸入生産物を商品として製造することを継続的に行って生計を維持し、それは社会的機能分担の活動であって、人格的価値と不可分であるといえるから、「職業」にあたる。

(2)憲法22条1項は職業選択の自由を保障している。この点、選択した職業の遂行の自由すなわちその職業活動の内容、態様においても原則として自由であることが要請されるのであり、憲法22条1項は営業の自由の保障を包含していると考える。

 上記自由は、Xのような者が上記職業活動の内容となる行為であり、営業の自由として憲法22条1項の保障を受ける。

(3)本件法律により、外国からの輸入を規制されることにより、その生産物を外国から自由に安く輸入できず、コスト高による収益の著しい低下を招き得ることから、上記自由に対する制約が認められる。

(5)よって、目的が重要で、手段が目的との関係で実質的関連性を有するといえなければ違憲であると考える。

ア.本件目的は外国からの輸入を規制し、その生産物の価格の安定を図る措置を講ずることで国際競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図る点にある。価格の安定を図るには政府が価格設定に介入するよりも、市場原理にゆだねた方が効率的に経済活動を促すことができるため、目的が重要とは言えない。

(6)以上より、本件法律は憲法22条1項に反し違憲である。

第2.設問2

1.被告としては、以下の通り反論しうる。

(1)まず、Xのような者は、その生産物を輸入することを禁じられるわけではないから、上記自由に対する制約が認められない。

(2)仮に認められるとしても、輸入を禁じられるわけでないから制約の強度も弱い。また、職業の多様性に応じて規制態様も多様であることから立法裁量が認められる。この点、本件目的は上記であり積極目的規制であることから、裁量は広いといえる。

(3)よって、目的が正当で、手段が目的との間で合理的関連性を有すれば合憲となる。

ア.本件目的は、上記であるところ、国際的競争力のある弱い産業を保護することは、社会経済政策の一つといえ正当である。手段については、外国からの輸入を規制すれば、その生産物の価格の安定を期待できることから、上記目的との関係で合理的関連性を有する。

(4)以上より、本件法律は合憲であると主張する。

2.以下、私見を述べる。

(1)上記自由に対する制約について、Xのような者はその生産物を輸入することを禁じられるわけではなく、その生産物を国内産の者に代えれば、変わらず、その生産物を原料として商品を製造することができる。したがって、被告の反論が妥当し、制約は認められないと考える。

(2)仮に認められるとしても、国内産のその生産物を使えば商品の製造を続けられることから制約の態様は弱いといえる。

また、職業の多様性に応じて規制態様も多様であることから立法裁量が認められる。よって、憲法上是認されるかどうかは、職業の自由の性質、制限の程度等を比較考量したうえで決すべきである。もっとも、事の性質上立法裁量にはおのずから広狭がある。

 事の性質について、本件法律の目的は、国際競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図るという積極目的規制であるところ、かかる目的を達成する方法は複数考えられるため、どの手段が最適であるかの判断は困難である。したがって、裁量は広いといえる。

(3)よって、目的が正当で手段が目的との関係で合理的関連性を有しない限り違憲であると考える。

ア.本件目的は上記であるところ、国際競争力の弱いある産業を保護することは、社会経済政策の一つとして認められ、正当といえる。

 手段について、外国からの輸入を規制することで、おのずとその生産物の価格は安定することが期待されるから、上記目的との関係で合理的関連性を有する。

(4)以上より、本件法律は合憲であると考える。

 

1hくらい

エクササイズ刑事訴訟法第16問傷害事件②

  • 設問1について

1.本件訴因は「平成29年4月頃から同年5月上旬頃までの間」「L市〇〇×丁目×番×号付近路上と同市□□△丁目△番△号付近路上との間を走行中の普通乗用自動車内、同所に駐車中の普通乗用自動車内及びその付近の路上等」「多数回」と概括的記載がなされているところ、訴因が「特定」(刑事訴訟法(以下略)256条3項)されているといえるか。特定されていない場合は公訴棄却(338条4号)となりうるため、問題となる。

(1)訴因とは、罪となるべき事実とこれを具体化する日時・場所・方法から構成されるものであり、罪となるべき事実が特定の構成要件に該当する事実であることから、訴因が特定されているといえるためには、まず、特定の構成要件に該当することが判別できる程度に具体的事実が示されていることが必要である。もっとも、日時・場所・方法は、それが構成要件要素である場合を除き、罪となるべき事実そのものではなく、訴因を特定する一手段に位置づけられる。

 また、当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項)の下で検察官が審判対象として設定したものが訴因であるため、審判対象の画定という見地から、他の犯罪事実と識別できる程度に具体化されたものであることが必要である。

 そして、256条3項が「できる限り」の特定を要求していることから、犯罪の種類、性質等の如何により、犯罪の日時・場所・方法等を詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、概括的に表示された部分と明確に表示された部分が相俟って、特定の構成要件に該当することが認識でき、他の犯罪事実と識別できる程度に特定されていれば、検察官は証拠に基づいてできる限り訴因の特定を行ったものといえる。

(2)本件において、前述のとおり、検察官の記載した訴因は、犯行の日時が「平成29年4月頃から同年5月上旬頃までの間」、場所が「L市〇〇×丁目×番×号付近路上と同市□□△丁目△番△号付近路上との間を走行中の普通乗用自動車内、同所に駐車中の普通乗用自動車内及びその付近の路上等」、暴行の回数が「多数回」と概括的な記載がなされている。

 もっとも、本件の訴因は傷害罪に係るものであるところ、その構成要件に該当するとの判断は、傷害罪が暴行罪の結果的加重犯であり、結果的加重犯においては基本犯の構成要件が満たされればよいことから、「暴行」行為を示せばよく、暴行の回数が概括的であったとしても同構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実が記載されているといえる。

 確かに、本件を構成する個々の暴行行為を併合罪と解するのであれば、かかる概括的記載では、他の暴行罪・傷害罪との識別ができないようにも思われる。しかし、本件のようにある程度限られた期間・場所において、同様の人的関係・動機を背景に、類似の態様で反復継続された結果、一人のVの身体に一定の傷害が生じたと評価でき、包括一罪と評価することが可能である。よって他の犯罪事実と識別できる程度に具体化されたものであるといえる。

 

(包括一罪の識別)cf.百選44解説5

 

 Vも甲も記憶・供述にあいまいな点が多かったなどの事情から、起訴当時の証拠関係に照らし、概括的な日時・場所・方法による基礎を行うとの検察官の判断にも相応の理由があるといえる。

(3)以上より、本件において訴因が特定されているといえる。

  • 設問2について

1.第1審裁判所は、訴因記載の「下半身に燃料をかけた上ライターで点火」を「何らかの方法で」と変更し、訴因記載の「顔面をバットで殴打する暴行」との事実を認定しないなど、訴因と異なった事実を認定しているが、訴因変更を経ておらず違法とならないか。

訴因変更の要否

(1)当事者主義を採用する現行法の下では裁判所の審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であるところ、その機能は、裁判所に対し審判対象を画定し、その限りにおいて被告人に防御範囲を明示する点にある。

したがって、審判対象の確定に必要不可欠な事実、すなわち①被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足る具体的事実、及び②ほかの犯罪事実と区別するに足る事実、に変更がある場合には訴因変更手続きが必要になると考える。

また、③訴因事実と異なる認定事実が一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるときは、争点明確化による不意打ち防止の要請に基づく措置が取られるべきであり、④検察官が訴因においてこれを明示した場合、原則として、訴因変更手続きを要すると考える。

 もっとも、⑤被告人の防御の具体的な状況等の心理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、⑥判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとは言えない場合には、例外的に訴因変更手続きを経ることなく訴因と異なる事実を認定できると考える。

(2)本件において、暴行態様の一部を認定せず、異なる点火方法を認定している。もっとも、本件変更は弁護人において暴行行為を否認しているとしている。また、弁護人側からの被告人質問において本件当時甲が禁煙していたとの事実が明らかになっている。さらに、弁護人請求にかかる甲の弟に対する証人尋問において甲の弟が専ら野球で使用していたとの証言が得られている。そして、第1審裁判所はかかる事実を踏まえたうえで、点火方法としてライターを用いた事実及び顔面をバットで殴打する暴行を加えた事実につき合理的疑いが残ると考えるに至った。したがって、被告人甲に不意打ちを与えるものではないと認められないし、より不利益にならないといえる(⑤⑥充足)。

(3)以上より、訴因変更は不要であり、本件認定は違法とならない。

  • 設問3について
  • 本件では第1審裁判所が有罪とし、甲が全部無罪を主張して控訴している。控訴裁判所が全部有罪と考えた場合、訴因全部につき有罪とすることができるか。ライターによる点火や、バットによる顔面殴打が当事者間において攻防の対象から外されたといえるかが問題となる。
  • そもそも、訴因制度をとる現行法の下では、審判対象の設定は検察官に委ねられており、検察官は処罰意思のない部分についても処分権限を有している→にもかかわらず、裁判所が検察官からの不服申立てがなかった部分にまで職権調査を及ぼすならば、検察官が処罰意思を放棄して主張を差し控える権限を侵害することになる。そこで、ある1つの犯罪事実につき複数の訴因構成がとれる場合に、それらが検察官の裁量権限内であるときは、検察官がその一方につきあえて控訴を申し立てないのであれば、その部分は攻防の対象から外れ、裁判所は職権調査を及ぼすことができないものと考える。
  • 本件において、前述のように本件暴行行為は包括一罪であると評価できるところ、本件ライターによる点火や、バットによる顔面殴打はそれぞれ暴行行為と評価できるが、あくまでも一人のVの身体に一定の傷害結果を及ぼすことになった暴行行為の一部に過ぎないのであって、もはや独立して1個の犯罪構成要件に当たるということはできない。
  • 以上より、検察官が控訴していない場合であっても、訴因全部につき有罪とすることは許される。

エクササイズ刑事訴訟法第15問傷害事件①

  • 設問1について

1.逮捕に伴う捜索差押の前提として本件甲の現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下略)213条)は適法か。

(1)逮捕を行うためには原則として令状が必要となる(憲法33条、刑訴法199条)。その趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対して、現行犯逮捕の場合には、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから誤認逮捕のおそれが低く、他方で犯人逮捕の必要性も高いことから、令状主義の例外として無令状で行うことが許される。

したがって、現行犯人に当たるとして現行犯逮捕が適法とされるためには、①犯罪と犯人の明白性、②犯罪と逮捕行為との時間的接着性、③逮捕の必要性が必要となる。犯罪と犯人の明白性を判断するに当たっては、逮捕現場の客観的事情、現場における被害者の挙動、その他逮捕者自らが直接覚知した客観的事情を資料とするが、被害者・目撃者の通報・供述、被逮捕者の供述も、客観的資料を補充するものとして認定資料とすることができる。また、現行犯逮捕について逮捕の必要性に関する明文規定はないが、現行犯逮捕も逮捕の一類型であることに鑑みて、逮捕の必要性が要件になると解する。

(2)本件において、甲がVに皿を投げつけるなどした旨の通報があったことや甲が血のついたハンカチを持っていたこと、Vが「甲からやられた」と話していること、他の参加者が甲の暴行を間違いないと言っていること及び甲自身もVに対して暴行を加えたことを認めていることから、犯人の明白性が認められているといえる(①充足)。そして、本件犯行現場たる甲方の庭において、Nらが事情を聴いた後すぐに現行犯逮捕したものと考えられるから時間的接着性が認められる(②充足)。前述のように甲の犯人性は明白であり、犯罪の嫌疑は高く、犯行現場が甲宅の庭である以上、証拠隠滅を行うことは容易であると考えられるから、甲を逮捕する必要性が高度に認められる(③充足)。

 (3)以上より、本件現行犯逮捕は適法である。

3.甲に対する傷害罪の被疑事実によって、甲方の庭における庭に散乱していた食器類の捜索差押を行っているが、これは220条に規定する無令状差し押さえとして適法か。以下検討する。

(1) 本件では、無令状で捜索差押をしており、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に違反するのが原則である。令状主義の趣旨は、逮捕の理由と必要性の判断を捜査機関に全面的に委ねると誤認逮捕のおそれが高まるため、あらかじめ裁判官にその判断をさせるところにある。これに対し、逮捕に伴う捜索差押が無令状で行える(220条1項)趣旨は、本来令状主義の下、「理由」として被疑事実と関連する検証すべきものの関連性を令状裁判官が審査すべきところ、逮捕の現場には一般的に被疑事実に関連する検証すべきものの蓋然性が高く令状審査が不要である点にある。

(2)ア.本件では、甲を現行犯逮捕(213条)した直後に行っており「逮捕する場合」に当たり、犯行現場たる甲宅の庭で行っており「逮捕の現場」といえる。

イ.本件は、前述のように犯行現場が甲宅の庭である以上、庭に散乱した皿等を片付けて証拠隠滅を行うことは容易であると考えられるから「必要があるとき」といえる。

(3)ア.上記220条1項の趣旨より、逮捕に伴う捜索差押で差し押さえることができる物とは、逮捕の基礎となった被疑事実に関連する物であると考える。

イ.本件被疑事実は傷害であり、皿を投げつけられたこと等によりVが血を流していると考えられることから、床に散乱した食器類は、V傷害の際に凶器として使われたことを推認し、被疑事実との関連性が認められる。

(4)以上より、甲宅の庭における捜索差押は適法である。

4.もっとも、甲とVの関係を解明するための日記、アドレス帳、通信機器、室内インターホンに録画データとして残った防犯ビデオの画像を証拠として確保する必要があると考え、甲方の居間及び玄関についても捜索差押を実施し、居間からスケジュール帳と、玄関に設置されたインターホン内からSDカードを取り出して差し押さえた行為は適法か。まず、本件逮捕場所は甲宅の庭であるところ、甲方の居間及び玄関が「逮捕の現場」といえるか問題となる。

(1)ア.220条1項の趣旨は上記である。そうだとすれば、証拠の現存する蓋然性が高い、逮捕に着手した場所、追跡中の場所及び逮捕した場所で、かつ、通常の捜索差押えが1つの令状について捜索場所と同一の管理権の及ぶ範囲に限られていることから、同様に、これらの場所と直接接する範囲の空間で同一の管理権の及ぶ範囲が「逮捕の現場」に当たるものと考える。

イ.本件において、本件逮捕は甲宅の庭で行われている以上、甲の管理権の及ぶ甲方全体が「逮捕の現場」といえるから、甲宅の居間や玄関も「逮捕の現場」にあたる。

(2)本件捜索差押は現行犯逮捕後の甲宅の庭における捜索差押に引き続いて行われており「逮捕する場合」といえ、甲とVとの人的関係を知るためのアドレス帳等や室内インターホンの防犯ビデオ画像は本件被疑似実に関する証拠であって、室内にこれらが存在する蓋然性が高いのであるから、室内の捜索の「必要があるとき」といえる。

(3)以上より、本件甲方の居間及び玄関における捜索差押は適法である。

5.甲を約4㎞、車で約10分離れたM警察署に移動させて行った甲の着衣内ポケット等の捜索は適法か。この点、上記M警察署は「逮捕の現場」にあたらない。もっとも、本件捜索の対象は甲の身体所持品であるところ、移動先での捜索差押が許されないか。

(1)被疑者の身体所持品の場合は、逮捕場所から移動しても証拠物の存在する蓋然性に変化はない。また、法定されている各種の強制処分については、その本来的目的達成のために必要な付随的措置を合わせ実行可能と解することができ、人の身体の捜索についてはその実施に必要な限度で目的達成に不可欠の付随的措置として場所的移動が可能であると解される。

 そこで、①逮捕した被疑者の身体所持品に対する捜索差押えである場合において、②その場で直ちに捜索差押えを実施することが適当でないときには、③速やかに、被疑者を捜索差押の実施に適する最寄りの場所まで連行したうえでこれらの処分を行ったといえれば、「逮捕の現場」における捜索差押えと同視することができ、許容されるものと考える。

(2)本件捜索は逮捕した被疑者甲の着衣内ポケット等という身体所持品に対するものである(①充足)。Nらが逮捕場所たる甲宅の庭で甲の着衣内ポケットについて捜索を実施しようとしたところ、騒ぎをききつけた報道陣ややじ馬が甲方敷地前に多数集まってきて、中には脚立を立てて甲方庭内の撮影を試みる者も出てきたというのだから、芸能人であり、報道陣や野次馬の好奇の目にさらされやすい甲の名誉が害されているといえる。また、かかる逮捕場所付近の混乱した情況により捜査が進行できない可能性もある。加えて、甲方敷地前に多数の人が集まることによって交通網への影響を及ぼす可能性もあるといえ、その場で捜索差押をすることは適当でないといえる(②充足)。本件捜索は甲宅から約4㎞という近接した場所において、車で約10分という短時間でM警察署という最寄りと考えらえる捜索をするに適した場所に移動させて行っている(③充足)。よって、「逮捕の現場」における捜索差押と同視することができる。

(3)以上より、甲の着衣内ポケット等の捜索は適法である。

  • 設問2について
  • 検察官がVの証人尋問において再現写真を示した行為は不適切ではないか。この点、書面等を用いた尋問は(ア)書面等の成立・同一性について尋問する場合(規則199条の10)又は(イ)記憶を喚起するため必要がある場合(規則199条の11)又は(ウ)供述を明確にするため必要がある場合(規則199条の12)に当たる場合にのみ許されているところ、本件尋問が上記(ア)~(ウ)の場合に該当するか検討する。
  • 本件において、主尋問を開始した検察官は、まず、甲とVとの関係についていくつか質問した後、「続いて被害の状況について質問します」と述べながら〈被害再現見分調書〉添付の写真を手に証人Vに近づくと、「写真を示します。これはあなたが被害にあった状況を撮影したものに間違いありませんか」と質問しているところ、この場面で(ア)写真の成立・同一性について尋問しても全く無意味であるといえる。よって、本件尋問は(イ)か(ウ)の可能性があるといえる。
  • 上記いずれの場合であっても「裁判長の許可」が必要であるところ、本件では裁判長からの明確な許可がなされてはいないと考えられる。

 仮に裁判長の許可があるとする場合、他の要件を満たすか。

  • (イ)に当たる場合、規則199条の11第2項は「書面の内容が承認の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない」と規定しているところ、本件において検察官は被害の状況についての質問を実際にするよりも前に本件写真を手にVに近づいている。通常、証人は質問を聞いて、記憶を喚起し、証言をするところ、質問を聞くよりも前にいきなり再現時の写真を示せば、証人の記憶、供述内容に不当な影響を与えることは容易に想像できることであり、相当でないといえる。
  • (ウ)に当たる場合においても、供述明確化というからには、先になされた供述が存在し、それを写真等で明確にすることが前提であり、被害状況に関し先行する供述が存在しない状況において承認の供述を明確にするために写真を示す行為を適法と認めるのは困難である。
  • 以上より、上記行為は不適切である。
  • 次に、公判調書末尾に本件写真を添付するよう求めた行為は不適切ではないか。この点、規則49条は写真の調書への引用について規定しているが、本件写真は規則49条の要件を満たさないか検討する。まず、同条に基づき添付する書面等について当事者の同意が必要か問題となる。
  • この点、証人に示した写真を参照することが承認の証言内容を的確に把握するために資するところが大きいといえる場合には、かかる写真の調書への引用は適切な措置であるということができる。かかる適切な措置である以上、写真を独立した証拠として扱う趣旨のものではないといえ、当事者の同意を要しないと考える。
  • 本件においては、前述のように写真を示した尋問は不適切なものであった。したがって、当事者の同意を要すると考えられる。もっとも、本件で甲の弁護人は本件〈被害再現見分調書〉を不同意としている。
  • 以上より、上記行為は要件を満たさず不適切であるといえる。